社説:入国禁止、批判拡大 日本は静観でいいのか

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 トランプ米大統領が難民受け入れ凍結や中東・アフリカのイスラム圏7カ国からの入国禁止を決めた大統領令について、米国内はもとより国際社会からも批判の声が上がっている。

 国連の難民高等弁務官は「(120日間の受け入れ凍結により)推計で2万人の難民が行き場をなくす恐れがある」と指摘し、速やかな解除を求めた。人権高等弁務官は7カ国からの入国禁止について「国籍のみを理由にした差別は人権法違反だ」と非難した。

 フランスのオランド大統領はトランプ氏との電話会談で「難民受け入れなどの原則を無視しては、世界の民主主義を守るための戦いが困難になる」とくぎを刺した。ドイツのメルケル首相も、出身や信仰によって差別的に扱うことに疑義を表明。カナダのトルドー首相は、ツイッターで難民向けに「カナダの人はあなたたちを歓迎する。多様性は私たちの力だ」と発信した。

 禁止対象の7カ国はシリアやスーダンなどで、トランプ氏は「オバマ政権がテロの根源と位置付けた国だ」と主張する。だが、前政権から残るイエーツ司法長官代理は「適法であるか確信が持てない」として大統領令に従わないよう省内に通知し、解任される事態になった。7カ国の出身者らが近年、米国でテロを起こし国民を殺害した事例はないとする報告もあり、大統領令の根拠が揺らいでいる。

 イスラム教徒を標的にしたかのような入国禁止措置は、世界の分断に拍車を掛けるだけでなく、これまで米国が主導して世界に広めてきた信仰の自由や人権の尊重などの普遍的な価値を否定することになりかねない。価値観を共有してきた国々がそれをいさめ、理想を掲げ続けるよう説得する必要がある。

 米産業界からも反発が相次ぎ、コーヒーチェーン大手のスターバックスは今後5年に世界で難民1万人を雇用すると発表した。多くの批判の根底にあるのは「多様性」の尊重だ。

 安倍晋三首相は衆院予算委員会で大統領令について問われ、「コメントする立場にない」と答えた。10日の日米首脳会談を前に、日米の貿易不均衡をやり玉に挙げるトランプ氏を刺激したくないとの判断なのだろう。だが、このままでは国際社会に対し、日本は人権問題などを重視しない国だというメッセージを送ることになる。大統領令の問題点を指摘し、翻意を促すべきだ。

 日本政府が大統領令への言及を避ける背景に、認定が厳格過ぎるとの指摘もある難民政策がありはしないか。法務省難民認定室によると、昨年1~9月の難民認定申請数は、過去最多だった15年の年間分を上回る7926人。一方で認定は6人、人道上の配慮からの在留許可も56人にとどまる。国連は日本に紛争国などからの難民の受け入れ拡大を要請しており、前向きな取り組みが求められる。