社説:「共謀罪」法案 問題多く提案は無謀だ

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 共謀罪の構成要件などを変えた組織犯罪処罰法改正案の全容が明らかになった。適用対象を「組織的犯罪集団」に限定し、現場の下見などの「準備行為」があることも処罰の要件とした。対象犯罪は当初、法定刑が懲役・禁錮4年以上の676に上っていたが、直接テロの手段になり得るものを中心に277に絞り込んだとしている。

 政府は法改正の狙いを「2020年東京五輪・パラリンピックを見据えたテロ対策強化」とし、共謀罪ではなく「テロ等準備罪」の呼称を使って説明してきた。しかし、改正案の条文には「テロ」という表記は一つもない。与野党から疑問視する指摘が相次いだため、政府はテロの文言を明記する方向で検討に入ったという。

 野党は「テロ等準備罪と呼んでいたのは、国民を安心させるための印象操作だったのではないか」と反発を強めている。弁護士や学者からは「条文が不明確で、処罰対象が拡大解釈される恐れがある」などと懸念の声も上がる。二転三転する金田勝年法相の国会答弁に象徴されるように、問題の多い法案だと言わざるを得ない。

 政府は改正案について、これまで3度廃案になった共謀罪法案より構成要件などを厳しくしており、一般市民を対象にしたものではないと強調する。罪に問われる組織的犯罪集団を「目的が対象犯罪を実行することにある団体」と定義し、従来の「団体」から変更した。

 しかし、組織的犯罪集団と認定する要件が極めて曖昧な上、法務省が「正当な活動を行っていた団体でも、目的が犯罪を行うことに一変した場合は処罰対象になり得る」との見解を示したため、野党は「一般市民が処罰される恐れは否定できない」と批判している。

 どういった場合を「目的が一変した」に当たると判断するのか。組織的犯罪集団の認定に関する明確な基準や要件が示されない限り、処罰対象が拡大解釈される懸念は払拭(ふっしょく)できない。

 処罰の要件となる「準備行為」については「資金または物品の手配、関係場所の下見その他」と規定。これについても「その他」とあることで、捜査機関による恣意(しい)的な運用につながりかねないと専門家は指摘する。

 さらに、準備行為は「計画した者のいずれか」により行われることとしているため、1人が準備行為をすることで犯罪を行うことに合意した他のメンバーが処罰される可能性もある。となれば、犯罪の謀議に加わっただけで処罰される過去の共謀罪と本質的に変わらないことになるのではないか。

 政府は今月中旬にも改正案を閣議決定する方針という。国民の権利に関わる重要な問題を指摘されながら、十分な説明もできぬまま国会に改正案を提出するのは無謀ではないか。政府は国民の懸念を真摯(しんし)に受け止め、提出を断念すべきである。