社説:原発避難者訴訟 安全軽視戒める判決だ

お気に入りに登録

 東京電力福島第1原発事故を受け福島県から群馬県などに避難した住民が国と東電に計約15億円の損害賠償を求めた訴訟で、前橋地裁は「津波は事前に予測でき、事故を防ぐことは可能だった」として双方の過失を認め、計3855万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

 全国に避難した住民約1万2千人が各地で起こした約30件の同種集団訴訟で最初の判決。原告側によると福島第1原発事故を巡り、裁判で国や東電の過失が認められたのは初めてといい、「極めて大きな意味がある」と評価した。

 事故から6年たった今も、福島県では約8万人近くが県内外で避難生活を続けるなど、事故による経済的、精神的影響は計り知れない。対策を講じていれば事故は防げた、という判決の指摘は重い。国も東電も真摯(しんし)に受け止めなければならない。

 群馬の原告は避難指示区域に住んでいた人と区域外からの自主避難者合わせて137人。「生活基盤を失い、慣れない土地で精神的苦痛を受けた」として1人当たり1100万円の慰謝料などを求めた。

 訴訟の焦点だったのは、国と東電が巨大津波の来襲を予測できたかどうか。政府の地震調査研究推進本部が2002年に示した地震規模などの長期評価を基に東電が試算したところ、津波の高さは海抜10メートルの原発建屋の敷地を上回るとの結果が出た。だが国も東電も、長期評価には学者の中にも異論があり科学的知見として不十分で、巨大津波は想定外だったと主張した。

 判決は、長期評価を基に巨大津波の予測は可能で、東電は原発建屋の地下にあった非常用電源設備を上階に移すなど対策を講じることができたと認定。国に対しても規制権限に基づき東電に対策を取らせていれば事故は防げたとして過失を認めた。さらに、東電は安全性より経済的合理性を優先させたとし「特に非難に値する」と指摘した。

 原告は慰謝料請求により、国の指針に基づく東電の賠償水準が妥当なのかを問い掛けた。賠償が認められたのは62人で、1人当たり7万~350万円。個々の事情を認定し、指針とは別に慰謝料額を算定しており、今後の賠償に影響を与えそうだ。

 今回の判決は、国会事故調査委員会が12年にまとめた報告書を思い起こさせる。事故調は、福島第1原発は地震や津波などによる過酷事故への対策が不十分で、国の規制当局、東電経営陣が組織の都合などで対策を先送りしたことが事故の原因と分析。「事故は人災で、国と東電には、人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった」と指摘している。

 東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を目指しているが、判決で指摘されたような経済的合理性優先の姿勢は改まっているのか。全国で原発の再稼働を進める国と共に、安全を守る責任感が厳しく問われている。