北斗星(3月20日付)

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 中国東北部の吉林省延辺朝鮮族自治州を以前訪れた時、驚いたことがある。国境の川、図們江(ともんこう)を隔てて対岸に広がる北朝鮮の山が、見渡す限りほとんど丸裸なのだ

▼標高500メートルほどの山頂部まで段々畑が続いていた。食料不足で国が増産を命じたためという。さらに住民が暖房用などに木を伐採し、森林は消えうせていた。洪水や土砂崩れが頻発するようになったのは、皆伐で山の保水機能が衰えたことによる。厳しい現実を垣間見た気がした

▼山が木々に覆われているのは日本では普通の風景だが、海外ではそうとは限らない。全国町村会発行の「町村週報」最新号で宮口〓廸(としみち)・早大教授は日本と外国の山容の違いに触れ、「日本の農山村の価値を考える大きな出発点になった」と記している

▼宮口教授は、欧州では小麦畑だけで食料を十分賄えなかったため山の木を伐採し、牧草地にして家畜を増やしてきたと指摘。一方、日本では温暖多雨の気候に合った収量性の高い水田稲作を確立したことで山を食料生産の場として使う必要がなく、森林が残ったと説明する

▼森林は国土保全だけでなく、腐葉土に含まれる養分を川を通じて供給し、肥沃(ひよく)な農地や好漁場を育んできた。「わが国がいかにいのち育つ風土のもとにあるかを、あらためて認識してもらいたい」と宮口教授

▼好天に恵まれた昨日、太平山の残雪の中に森が墨絵のようにくっきり見えた。きょうは春分の日。山が生命に満ちる季節はもうすぐだ。

※〓はにんべんに同