社説:首相の改憲発言 年限区切るのは強引だ

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 安倍晋三首相は施行70年の憲法記念日に開かれた改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。戦争放棄などを定めた9条の文言は変えず、自衛隊の存在を明記する条文を追加するよう提案した。

 その理由として、首相は「『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきである」と指摘。その上で「戦争放棄」を定めた9条1項と、「陸海空軍その他の戦力」の不保持を定めた2項は現行のまま維持し、自衛隊の存在を明記する文言を加えることが「国民的な議論に値する」との考えを示した。

 「自民党総裁として」と断った上での発言だが、首相が改憲の具体的な目標時期まで明示したのは初めてである。9条改正は首相が宿願とする改憲の「本丸」とされていただけに、真意の一端が明らかになったとも言える。

 9条は憲法の基本原則の一つである「平和主義」の柱であり、その理念は国民に浸透し、国際社会からも評価されてきた。それ故に扱いは国際的な影響も考慮して慎重に議論されるべきであり、改憲目標の年限を区切って国会の議論を加速させようとする首相の姿勢はあまりに傲慢(ごうまん)ではないか。

 衆参両院の憲法審査会では改憲項目の絞り込みが進められているが、9条の改正はまだ正式な議題として取り上げられていない。首相自身、これまで具体的な改憲項目については「国会の憲法審査会で議論してほしい」と繰り返し国会で答弁し、野党との論戦を避けてきた。そうした中での今回の発言は唐突感が否めず、国会軽視と言わざるを得ない。

 さらに、改憲派グループの集会で表明しただけでは国民全体に伝わらず、議論が深まるとは思えない。首相は国民と国会に対して提案内容の説明を尽くすべきであり、時間をかけて議論するのが筋である。

 自民党は12年、9条2項を大幅に改正して「国防軍」の創設などを盛り込んだ改憲草案を決定している。それと異なる改憲案を首相が提案した背景には、現憲法は修正せず必要な条項を新たに加える「加憲」を主張する公明党への配慮があるとみられる。

 また、首相はビデオメッセージで高等教育の無償化に関する議論の進展も促した。日本維新の会は独自の改憲案に無償化を掲げており、その協力を得ようという思惑が透けて見える。

 しかし、「数の力」に任せて改憲目標の年限を区切ろうとする首相の強引な姿勢は、与野党での幅広い合意を目指すことを基本に議論している国会の憲法審査会を混乱させるだけである。改憲論議が自分の思うように進まないからといって性急に事を運ぼうとすれば、国民の理解は得られないだろう。