社説:「共謀罪」衆院通過 参院で徹底審議が必要

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が衆院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決された。与党は衆院法務委員会に続き、民進党など野党の反対を押し切り採決を強行した。

 審議の場は参院に移るが、改正案に対する国民の不安は根強く、与党が早期成立を狙って強硬姿勢を貫くことは許されない。参院では徹底して審議する必要がある。

 本会議では採決に先立つ討論で自民党議員が「これまでの審議で政府は丁寧に答弁しており、改正案は国民から支持されたと確信している」と強調。金田勝年法相も可決されたことを受けて「重要な法案だと理解していただいた結果だ」と述べた。だが、それらの発言は国民の思いと乖離(かいり)していないか。

 共同通信社が衆院法務委で採決した翌日から2日間行った世論調査では、改正案について「政府の説明が不十分」と答えた人が77・2%に達した。「十分だと思う」は15・3%で、国民の理解が進んでいない実態が浮き彫りになったと言えよう。

 さらに改正案への賛否自体は依然拮抗(きっこう)しているものの、今国会中に「成立させる必要はない」が56・1%に上り、「成立させるべきだ」の31・0%を大きく上回った。国会は十分時間をかけて慎重に審議してほしいというのが多くの国民の声であり、政府与党は重く受け止めなければならない。

 国民の理解が深まらないのは、衆院での審議が不十分なためさまざまな疑問や不安が解消されていないからだ。

 テロ等準備罪について政府は適用対象を「組織的犯罪集団」に限定し、処罰するには「準備行為」の認定が必要になるなど要件を厳格化したため「一般人が対象になることはあり得ない」と繰り返し説明してきた。

 これに対し民進党などは、組織的犯罪集団かどうかは捜査機関の判断になるとして「拡大解釈され、市民団体などが処罰される恐れがある」と指摘。犯罪の計画段階で取り締まることが可能になれば「内心の自由が脅かされ、監視社会を招く」などと強く反対している。

 国会での論戦に加え、人権問題担当の国連特別報告者が、改正案に懸念を示す書簡を安倍晋三首相宛てに送っていたことも判明した。書簡は「条文にある『計画』や『準備行為』の定義が曖昧で、恣意(しい)的に適用される可能性がある」とし、プライバシーや表現の自由を不当に制約しかねないと批判している。

 こうした状況を見れば議論が必要な論点はまだ多々あり、それらを棚上げして成立を急ぐのは慎重審議を求める国民の意に反する。参院では6月18日までの国会会期にこだわらず、審議を尽くさなければならない。それでも国民の理解が得られなければ、政府与党は改正案を取り下げるべきである。