社説:「共謀罪」法案審議 採決急がず議論尽くせ

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡り、週内の成立を狙う政府、与党に対し、廃案を目指す野党が金田勝年法相の問責決議案を提出するなど攻防が激化してきた。

 法案は現在、参院法務委員会で審議されているが、処罰の対象が「組織的犯罪集団」の構成員に限定されないことが明らかになるなど、政府の説明は揺れている。プライバシーをはじめ国民の権利を侵害する恐れがある法案だけに、疑問が置き去りにされることがあってはならない。

 政府、与党は参院の審議時間が目安に達したとして採決に踏み切る構えだが、成立ありきの姿勢は許されない。国民の懸念を払拭(ふっしょく)できるまで徹底的な審議に努めるべきだ。

 法案は刑法などに定められた277の罪を対象に、計画段階で処罰できるようにするもの。政府は、処罰対象が一般の会社や市民団体、労働組合などに拡大することがないよう、犯罪の主体を組織的犯罪集団に限定することを条文に明記したと説明してきた。

 しかし、金田法相は法務委の質疑に「組織的犯罪集団の構成員、または集団に関わる周辺者でなければ罪は成立しない」と答弁。「周辺者」という新たな概念が飛び出し、処罰対象が拡大する恐れが出てきた。周辺者の範囲がどこまで及ぶのかなど、まだ十分な議論はなされていない。

 法案に対しては国連の特別報告者が、法律が広く適用される可能性に言及し「プライバシーや国民の自由の行使に影響を及ぼす深刻な懸念がある」とする書簡を日本政府に送った。政府は「書簡は著しくバランスを欠く不適切なもの」(安倍晋三首相)と批判し法案の必要性を強調する見解を発表したが、「適切なプライバシー保護」や「捜査機関の活動の適法性」をどう担保するかなど書簡が示す懸念には具体的に答えていない。

 さらに書簡は、組織的犯罪集団の定義が漠然としていると指摘する。秋田弁護士会は、法案に反対する会長声明の中で同様の懸念を表明。正当な活動をしている団体も、団体の結合目的が犯罪を実行することに一変したと認められる場合は組織的犯罪集団になり得るとの政府の説明を挙げ、「市民団体や労働組合等の正当な活動が、捜査機関の恣意(しい)的な判断で捜査の対象とされる恐れが排除できない」と指摘する。

 グリーンピース・ジャパンなどの非政府組織(NGO)も「曖昧な定義で市民の活動が捜査の対象になりかねず、萎縮や不安が広がる」と法案を批判した。

 捜査対象になるかもしれないという恐れは、政府に抗議したり、政策に反対したりする活動を萎縮させかねない。それでは健全な民主主義とは言えない。異論を許さぬ社会になってしまわないかと不安を覚える。