社説:「共謀罪」法案採決 懸念は残されたままだ

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡り、野党が提出した金田勝年法相の問責決議案が、与党などの反対により否決された。与党は、問責案提出により参院法務委員会の審議は打ち切られたとみなし、法務委での採決を省略する「中間報告」という異例の手法で参院本会議で採決する。

 なぜそれほど、採決を急ぐ必要があるのか。それも数の力で押し切るという乱暴さだ。改正案は、内心の自由を脅かしかねないなどとして3度廃案になった共謀罪法案の構成要件を変えて提出されたものだ。野党は「犯罪を計画しただけで処罰されるという本質は変わっていない」と批判しており、国民の不安が解消されたとは言えない状況だ。禍根を残さぬよう徹底的な審議が求められていたはずだ。

 安倍政権下では一昨年の安全保障関連法案、昨年の環太平洋連携協定(TPP)承認案、統合型リゾート施設整備推進法(カジノ法)案など世論を二分する法案で採決が強行され、次々と成立。慎重審議を求める国民の声は無視され続けたままだ。

 異論に耳を傾けず、成立ありきで突き進む政府、与党の国会運営はあまりに横暴だ。そこには、合意形成といった民主的な手続きや価値観を軽視する姿勢が露骨に表れている。

 共同通信社が5月下旬に行った全国世論調査では、組織犯罪処罰法改正案に賛成の人は39・9%、反対が41・4%と拮抗(きっこう)している。ただし、「今国会中に成立させる必要はない」との回答は56・1%に上り、「成立させるべきだ」の31・0%を大きく上回った。改正案に慎重な国民の意識が浮かび上がる。

 さらに「政府の説明が十分だと思わない」は8割近くに達している。改正案に対する国民の理解は進んでおらず、その原因の多くが法案提出責任者の金田法相にあるのは明らかだ。

 答弁内容がその日のうちに変わったり、官僚の答弁をそっくり引用したりと、金田氏の説明姿勢には首をかしげざるを得ない。犯罪の構成要件となる下見などの「準備行為」について、「花見ならビールや弁当を持っているが、下見なら地図や双眼鏡、メモ帳を持っている」と外見で見分けられると主張。「バードウオッチングはどうなる」と突っ込まれる場面があった。

 また、捜査権乱用の懸念を払拭(ふっしょく)しようとするあまり、「一般人はテロ等準備罪の捜査対象にならない」と明言したが、法務副大臣が一時「一般の人が対象にならないということはない」と説明するなど政府側の答弁が食い違うこともあった。

 答弁の不安定さの背景として、改正案そのものの不備や欠陥も指摘されている。組織的犯罪集団の定義が曖昧で、市民団体などに対する監視が強まりかねないといった懸念は解消されていない。数々の疑問を残したままの採決強行は許されない。