社説:「共謀罪」法成立 熟議の府否定する暴挙

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。

 安倍政権下では与党が数の力で採決を強行することが常態化しているが、今回のやり方は特にひどい。法案は参院法務委員会で審議中だったにもかかわらず、自公両党は「中間報告」という異例の手続きを取り、委員会採決を省略して本会議採決を強行するという暴挙に出た。

 改正案は、捜査の在り方によっては人権侵害の恐れがあるなど多くの問題をはらんでいた。そうした懸念が解消されないまま「中間報告」により一方的に審議を打ち切ったことは、「熟議の府」とされる参院の役割を否定するものだ。議会制民主主義の危機と言わざるを得ない。

 改正法は適用犯罪を277とし、処罰対象をテロ組織や暴力団などの「組織的犯罪集団」と規定。2人以上で犯罪を計画し、うち少なくとも1人が現場の下見や資金調達などの「準備行為」をすれば計画に合意した全員が処罰される。犯罪実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系が、大きく変容することになる。

 法案審議では「組織的犯罪集団」の定義が曖昧だという指摘が相次ぎ、警察の恣意(しい)的な捜査により「一般人も処罰対象になる恐れがある上、内心の自由やプライバシーが侵害されかねない」と野党が強く反対した。

 しかし、金田勝年法相の不安定な答弁などによって衆院では国民の理解が深まらないまま与党による採決が強行された。安倍晋三首相は「参院の法案審議では丁寧な説明を心掛ける」と約束したが、実際は違った。

 政府は、処罰対象が組織的犯罪集団に限定されるため「一般人は対象にならない」と強調してきた。ところが金田法相は参院審議の中で、犯罪集団の構成員でなくてもその「周辺者」であれば処罰される可能性があることに初めて言及。周辺者の範囲がどこまで及ぶのか、一般人が含まれる恐れがないのか、十分議論する必要があった。

 それなのに参院法務委の審議時間は18時間足らず。野党が「国会の会期(18日まで)を延長して審議を尽くすべきだ」「参院の自殺行為だ」と採決に猛反発したのも当然だろう。

 政府、与党が法案成立を急いだ背景には、首相の友人が理事長を務める「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を巡る問題で、野党の厳しい追及から逃れるため会期延長を避けたいという思惑が透ける。国会審議よりも党利党略を優先したとすれば、本末転倒も甚だしい。

 捜査機関による恣意的運用で市民団体などが捜査対象にならないか、監視が強化されないかなど多くの問題が積み残されたまま改正法は来月にも施行される見通しだ。そうした懸念をどう払拭(ふっしょく)するのか、政府は納得できる説明をすべきだ。