社説:「共謀罪」法施行 恣意的運用防ぐ基準を

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 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだテロ等準備罪を新設する改正組織犯罪処罰法が施行された。

 先の通常国会で野党が「捜査権の乱用や監視社会につながる」として廃案を強く求める中、与党が参院法務委員会の採決を省略する異例の手続きで審議を打ち切り、参院本会議で採決を強行して成立させた法である。審議は尽くされておらず、国民の不安が払拭(ふっしょく)されないままの施行と言わざるを得ない。

 日弁連などは「テロ等準備罪の適用対象の定義は曖昧なままであり、一般市民が処罰される恐れがある」として抗議を続けている。これに対し、政府は国会論戦などを通じて「一般人は対象にならない」と言明してきただけに、国民への約束として確実に守らなければならない。

 捜査機関が法律を恣意(しい)的に運用することがないよう、国民は捜査の実態などを注視していく必要がある。

 改正法によると、テロ等準備罪の適用対象はテロ集団や暴力団などの「組織的犯罪集団」。犯罪を計画したメンバーら2人以上のうち少なくとも1人が現場の下見などの「準備行為」をすれば、全員が処罰される。

 対象犯罪は277に及び、犯罪の種類によって5年以下の懲役・禁錮か2年以下の懲役・禁錮を科す。犯罪実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系を大きく変容させる内容だ。

 政府は2020年東京五輪・パラリンピックを控えたテロ対策強化のために法案の早期成立が必要だと訴えたが、国会審議では一般人が捜査対象になるかどうかが最大の焦点となった。その背景には、警察の任意捜査の行き過ぎが問題になるケースが相次いだこともある。

 衛星利用測位システム(GPS)端末を容疑者の車などに取り付けての捜査は、最高裁が今年3月の判決で「プライバシー侵害に当たり、裁判所の令状がなければ違法」と判断したが、それまでは令状なしの捜査が続いていた。昨年6月には別府市で、野党の支援団体が入る建物の敷地に警察が隠しカメラを設置していたことも分かった。

 犯罪を計画した段階で取り締まるには団体や個人の動きを常時監視する必要があるとされ、改正法施行で「警察の権限拡大や監視強化が進み、プライバシーなどの人権が一層脅かされかねない」と専門家は指摘する。

 改正法施行に当たり、法務省は同法が適用された事件の取り調べでは可能な限り録音・録画(可視化)を実施するよう全国の検察庁に通達した。だが、それだけでは不十分だ。恣意的な運用を防ぐために、捜査対象の選定や監視方法などについても人権に最大限配慮した法の運用基準を早急につくるべきだ。

 裁判官の責任も増す。警察から逮捕などの令状請求があった場合、不当な人権侵害に当たらないかどうか厳正にチェック機能を果たすことが求められる。