北斗星(1月4日付)

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 科学技術が発達するにつれて人間の精神も高度なものに変わっていくのであれば、理想的だろう。だが現実はそうなっておらず、むしろ悪くなっている―

▼2012年に87歳で死去した詩人で評論家の吉本隆明さんは著書「真贋(しんがん)」(講談社文庫)で、そんな見方を披露した。パソコン技術は年々進歩し、以前では考えられないほど便利な世の中になった。さまざまな装置が開発され、運動能力なども向上した。一方で人間の愚かさは増したと説く

▼その現れとして吉本さんが示したのは核兵器の開発だ。米国やロシアが多数を保有しフランスや英国、中国がそれに続いている。インドとパキスタンは隣り合う国同士で保有し互いをけん制している

▼いま世界を脅かしているのが北朝鮮だ。昨年は国際社会の警告を無視して核実験とミサイル発射を繰り返し「核戦力の完成」を宣言した。米国は北朝鮮を「ならず者」と非難し、圧倒的な軍事力で威嚇している

▼最も怖いのは、あってはならない核戦争が何かをきっかけに勃発してしまうことだ。まさかそんな選択をするはずはないと思いたいが、いずれかが攻撃に踏み切れば悪夢が現実のものとなる。人間の愚かさが増しているとすればその恐れも完全否定できない

▼「それぞれの国の指導的な人たちは、そういうばかな競争をしないでどんどん廃棄する競争をすればいい」。戦争の時代を生き、思想を深めた吉本さんはそんな願いも書いた。人間の英知を信じるしかない。