社説:聴覚障害者の支援 手話普及へ環境整備を

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 2020年の東京五輪・パラリンピックを前に、「手話言語法」の制定を目指す活動が全国で進められている。聴覚障害者にとって手話は大切なコミュニケーション手段。法律で定められれば、手話を言語として活用するための環境整備が国の責務で進められるだけに、早期の制定が望まれる。

 かつて、ろう学校では健常者と同様、日本語を聞き取って話すことが優先され、手話が禁じられていた。代わりに相手の口の形を読み取り発声訓練をする「口話法」による教育が1990年代後半まで続いた。口話法の習得は難しく、押し付けではないかとの批判もあった。

 2006年、手話も言語の一つと定める国連障害者権利条約が採択されたことで風向きが変わった。その流れを受け、13年に鳥取県が全国の自治体で初めて手話言語条例をつくり、現在は本県を含む15府県、99市11町が条例を制定している。本県で手話言語条例が施行されたのは昨年4月。手話の普及推進や、手話通訳者をはじめ聴覚障害者との意思疎通を支える人材を育成することなどを定めた。

 聴覚障害者の相談窓口である県聴覚障害者支援センター(秋田市)によると、県内には約4200人の聴覚障害者がいる。これに対し手話通訳者は、県や秋田市などに常勤、非常勤、嘱託合わせて17人。ほかに必要に応じて派遣される登録者が20人いるものの、明らかに不足している。

 そのため県は条例に基づき、昨年10月に県民向け手話講座を開始。今月からは秋田市や大館市、にかほ市、湯沢市などの17小学校で手話教室を順次開く予定で、手話普及に向けた取り組みがようやく動きだした。

 同支援センターの加藤薫センター長は「私自身難聴で、手話を使って白い目で見られたり差別されたりした時代もあった。条例制定はうれしいが、その後の取り組みが大事」と語る。手話を広く普及させるには県民の理解が欠かせず、息の長い活動が求められる。

 聴覚障害者の中には、コミュニケーションがうまく取れないまま人知れず疎外感に悩む人が少なくない。そのため日常生活の困り事や悩み、さまざまな要望が周囲や行政に届きにくくなっている傾向がある。そうした聴覚障害者の悩みをより多くの人が理解することがまずは大切だ。県や市町村は啓発に力を入れるとともに、手話講座など健常者が気軽に手話を学べる機会を増やしてほしい。

 障害者自身が手話を学ぶ環境が整っていないのも問題だ。特別支援学校で手話教育は義務化されておらず、手話ができる学校の先輩や家族らから教わっているのが現状。手話通訳者が増えたとしても、障害者自身が使えなければ意味がない。系統立てた手話教育を全国どこでも学べるようにするためにも手話言語法の制定が急がれる。