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 第26回「さきがけ文学賞」は、東京で開かれた最終選考会で入選1編、選奨(佳作)1編が決まりました。同賞は直木賞作家の故渡辺喜恵子さん(現北秋田市出身)と本社の寄付金で設立された「財団法人さきがけ文学賞渡辺喜恵子基金」が運営しています。今回は全国から254編の応募がありました。


入選
正賞・ブロンズ像 副賞・50万円 ANA国内線任意1区間往復ペア航空券
 須田地央(ちお)さん 「リングのある風景」
         本名・渡邊幸夫 建築業 32歳 山梨県富士吉田市
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選奨(佳作)
賞金5万円 ANA国内線任意1区間往復ペア航空券
 島田明宏さん 「下総御料牧場の春」
         本名・同じ 著述業 45歳 東京都大田区
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第27回さきがけ文学賞の作品を募集(6月30日締め切り)

「さきがけ文学賞」についてのお問い合わせは 秋田魁新報社 出版部



 第26回さきがけ文学賞の最高賞である入選は、須田地央(ちお)さん(32)=本名・渡邊幸夫(ゆきお)、山梨県富士吉田市・建築業=の「リングのある風景」に決まった。応募総数は254編。芥川賞作家・高井有一さん(仙北市出身)、直木賞作家・西木正明さん(同)と同・北原亞以子さん(東京都出身)の3人が最終選考に残った5編の中から選出した。「リングのある風景」は若いボクサーが主人公。戦う理由を探しあぐねながらリングに上がり、プロデビュー戦でようやくその答えを見つける。選考委員からは「ボクシングのシーンは真実味があり、登場人物のせりふや性格がうまく描かれている」などと高く評価された。選奨(佳作)には島田明宏さん(45)=本名同じ、東京都大田区・著述業=の「下総御料牧場の春」が選ばれた。


「晩年の山本周五郎の文章には心に染みるような『間』がある。その辺りを学び取りたい」と語る須田さん

  大工として働く傍ら、20代半ばから小説の執筆に取り組んできた。昨年募集があった「第17回やまなし文学賞」では最終選考に残り、今作も手応えをつかんでいたが、受賞の連絡に実感がわかなかったという。「じわじわと喜びが込み上げてきた」と笑う。

 インターネットでさきがけ文学賞の存在を知り、好きなボクシングを題材にしようと考えた時、秋田市出身のプロボクサー・榎洋之選手が真っ先に浮かんだ。得意の左ジャブで評価を上げた榎選手への思い入れは強く、その姿を主人公に重ねた。「新聞に自分の小説が載るのは恥ずかしい気もするが、榎選手を生んだ秋田の人にこそ読んでほしい」と力を込める。

 主人公の間山昭文は25歳。趣味でボクシングジムに通う練習生だったが、目の前で敗れた先輩ボクサーのふがいなさに一念発起、プロになる決意を固める。共に戦うジムの仲間。写真スタジオの経営難に直面する父親。自らの指導法に悩む中学教師の恋人。そうした人々とかかわりながら、なぜリングに上がるのかを考え続ける。そして迎えたプロデビュー戦―。迷いながらも生きる人たちの姿から、戦う意味の大切さを教えられる。

 中学、高校の6年間ラグビーに打ち込んだ須田さん。一方で、勝敗がはっきりするボクシングの潔さに魅力を感じていたという。執筆のために3年前から地元のジムに通っている。さまざまな人間模様を見詰め、10日ほどで一気に書き上げた。

 「ボクシングは世界チャンピオンや勝者に目が行きがちだが、むしろ敗者に注目している。世界に遠い4回戦ボーイの1勝はすごく価値がある。世間の評価は低いかもしれないが、本人とその周りにとっては何物にも替え難い。そういうボクシングの面白さを身近に感じてほしい」

 随所に須田さんの観察眼が光る。登場人物の一人で間山と同じジムに通う伊藤は、努力の割に報われない役回り。世の中にはむしろ負けがあふれていることを語らせ、物語に現実味を与えた。「伊藤は一番力を入れて描いた人物で影の主人公」と言う。

 時折登場するカメラは単なる小道具としてだけでなく、語り手の役割も果たしている。シャッターを切り続けるようにつづられる文章が小気味よく、試合の場面に緊迫感を生んだ。ペンネームは「スタジオ」の当て字。ただ須田さん自身、写真の腕は素人だという。

 小説のアイデアやせりふを思い付けば、仕事の休憩時間を利用して落書き帳にメモし、自宅のパソコンに向かう日々。休日はネットカフェで終日執筆することも。「文章を書き上げた時に得られる達成感が創作の原動力」と須田さん。今後は長編にも挑戦したいと意欲を示す。

 山梨県富士吉田市生まれ。県立北富士工業高校を経て、東京製図専門学校卒業。愛読書は山本周五郎や吉川英治。両親と妹の4人家族。


「競馬にかかわりのない人に評価されるとうれしい」と語る島田さん=東京都大田区の自宅で

 親しくしている直木賞作家の伊集院静さんから、さきがけ文学賞受賞の祝福の言葉とお花を受けた。「日ごろの心掛けと、さきがけ(秋田魁新報)が良かったんだ、とジョークを言われました」。自身初の文学賞を素直に喜ぶ。

 物書きの道に入ったのは早大生のころ。高校までサッカー少年だったが、バブル全盛期に札幌から上京、華やかな世界へあこがれを抱いた。早大テレビ放送研究会に入り、放送作家の調査員や番組の台本書きなどをこなした。

 テレビ局で出会った番組スタッフから競馬の魅力を教わり、初めて競馬場へ。サラブレッドを間近に見て感動し、レース結果を予想する醍醐味(だいごみ)を知った。

 1990年に武豊騎手の米国遠征に同行。それを機に、月刊誌や週刊誌に競馬記事を書き始め、競馬ライターとして頭角を現した。各界の著名人に単独インタビューするなど、数多くの原稿を手掛け、著述業の地歩を固めた。現在、週刊誌と月刊誌の連載7本を抱える。

 「武豊騎手が尊敬する伊集院静さんの作品を読んで、情景や心情の描写の美しさにほれ込み、いつか小説を書いてみたいと思うようになった」と振り返る。

 受賞作は、競走馬の育成、調教を行う厩舎(きゅうしゃ)で働く人々や、「騎手の卵」らの人間模様を描いた。主人公は、その牧場に派遣された大学の農学部の研究員で、筆者自らを重ね合わせた人物。競走馬を相手に仕事をする難しさや、周囲の人々との葛藤(かっとう)に悩む一方、自分と同じ名前の当て馬「ダイスケ」の肌のぬくもりに触れて心を和ませる。

 作品の舞台の「下総御料牧場」は1969年まで、現在の成田空港(千葉県)付近にあった。「皇室の台所」とも言われ、野菜栽培や家畜飼育などで宮内庁に食料を納めると同時に、厩舎でサラブレッドを育てるなど「日本競馬界のパイオニア的存在」ともされる。

 「日本で競走馬のモンキー乗りを確立した『伝説のジョッキー』保田(やすだ)隆芳騎手がもし、少年時代に下総御料牧場にいたらと思い、今回の小説の構想を練った。競馬に興味のない人にも楽しく読んでもらえれば」と語る。

 応募作品を締め切り日の消印で投函(とうかん)した翌日、保田騎手がこの世を去った。「『作家として頑張れ』と、天国の保田騎手から声を掛けられたような気がしている」と創作意欲を燃やしている。


 今回は10代から80代までの幅広い年代から254編の応募があった。本県から12編、県外では東京43編、神奈川34編、大阪21編などの順に多かった。海外からは3編が寄せられた。

最終候補作品5編について意見を述べ合う(左から)高井有一さん、北原亞以子さん、西木正明さん=東京・銀座

 1、2次選考を経て最終選考に残ったのは「焼山かずら」「F子からの年賀状」「リングのある風景」「遅参しました四郎殿」「下総御料牧場の春」の5編(応募順)。

 選考委員は高井有一さん、西木正明さん、北原亞以子さんの3人。1作品ずつ講評しながら選考を進め、5編の中から「リングのある風景」「下総御料牧場の春」に絞り込み、最終的に「リングのある風景」を入選、「下総御料牧場の春」を選奨と決定した。

◇  ◇  ◇

 入選の「リングのある風景」は、25歳のボクサーが主人公。試合に負けた先輩ボクサーの引退とその胸中への思い入れ、ジム仲間との交流、高校時代の同級生で中学校教師の女性との触れ合い、プロテストへの挑戦など、テンポよくストーリーが展開する。その中で、スパーリングやプロテストでの戦いの様子が臨場感あふれる筆致でつづられる。ボクシングに引かれる若者の情熱と感傷を描いた作品。

 選考では「スポーツ人情もので、挫折するボクサーも登場する設定はよくある。スポーツ小説特有のセンチメンタリズムなのだろうが、最後の『河内さんは…』以降の数行は無い方が良かった。全体の雰囲気が薄まってしまう」との指摘があったが、「先輩ボクサーの試合をカメラ越しに見る視点が面白い。ボクシングシーンはそれなりにリアリティーがある。言葉遣いが上手で、人物のキャラクターもよく描けている」などと評価され、入選となった。

 選奨の「下総御料牧場の春」は、大学農学部の研究室から出向し、厩舎の寝藁(ねわら)の利用実態をリポートするために滞在する主人公が、競走馬の育成に携わる人々と心を通わせていく。厩舎や調教に詳しい作者ならではの作品世界をつむぎ出している。

 選考では「競馬についてずれずにしっかりと書いている」との講評があったほか、作品のまとまり、読みやすさの点で「入選作とともに、選外3編と比べて大きな差があった」と評価された。しかし「いつごろの時代なのか雰囲気が伝わってこない。暗い世相だったはずなので、それも書き込んでいれば、若者たちののどかな世界がもっとくっきり浮かび上がる。また、一つ一つのエピソードが尻切れで、物語のつくり方に腰が入っていない」などの理由で選奨となった。

 選外3編については「伊藤博文が好意を持って高杉晋作を描いた作品ということは分かる。が、その高杉像や伊藤の心情が書けていない。集めた材料の羅列という印象」(「焼山かずら」)、「懸命にストーリーを作ろうとしている。でも肝心のF子という人間が見えてこない。作品というよりプロットのメモのような感がある」(「F子からの年賀状」)、「凝った言い回しは散見される。しかし全体の文章がきちんとしていない。この時代にはなかった永代橋が出てきたり、おかしな部分も多い」(「遅参しました四郎殿」)などの指摘があった。

高井 有一さん
 歴史の端っこを読ませられるもどかしさを覚える作品もあり、今年も苦労した。その中で、文章力やストーリーの丁寧さで「リングのある風景」が最も良かった。一応の水準に達していたといえる。

西木 正明さん
 粒ぞろいの年があれば、今年のようにばらつきが大きい年もあり、その意味では選びやすかった。応募される方はまず本をたくさん読み、人さまに読んでもらう文章作法をしっかりと心掛けてほしい。

北原 亞以子さん
 書き込んでほしいところが抜けている作品、結末が出来すぎといった作品があり、残念だった。ただ、選者を務めさせていただいて以来の全体的な印象では、年々レベルは上がってきていると感じる。


最終候補作品(応募順・敬称略)
▽「焼山かずら」沖田秀仁(山口県周南市)
▽「F子からの年賀状」西国葡(はじめ)(スペイン)
▽「リングのある風景」須田地央(山梨県富士吉田市)
▽「遅参しました四郎殿」白川渉二(熊本県熊本市)
▽「下総御料牧場の春」島田明宏(東京都大田区)