
第28回「さきがけ文学賞」は、東京で開かれた最終選考会で入選1編、選奨(佳作)1編が決まりました。同賞は直木賞作家の故渡辺喜恵子さん(北秋田市出身)と本社の寄付金で設立された「財団法人さきがけ文学賞渡辺喜恵子基金」が運営しています。今回は全国から244編の応募がありました。
| 入選 | 正賞・ブロンズ像 副賞・50万円 ANA国内線任意1路線往復ペア航空券 |
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本名・同じ 学習塾経営 64歳 宮崎県都城市 |
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| 選奨(佳作) | 賞金5万円 ANA国内線任意1路線往復ペア航空券 |
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本名・同じ 農業 64歳 鳥取県倉吉市 |
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「さきがけ文学賞」についてのお問い合わせは 秋田魁新報社 出版部

第28回さきがけ文学賞の最高賞である入選は、永田宗弘さん(64)=宮崎県都城市=の「光芒」に決まった。応募総数は244編。芥川賞作家・高井有一さん(仙北市出身)、直木賞作家・西木正明さん(同)と同・北原亞以子さん(東京都出身)の3人が最終選考に残った5編の中から選出した。「光芒」は、薩摩の相州島津家当主と側室の間に生まれた男児を命の危険から守るため、付き人らが比叡山まで逃走させる物語。選考委員からは「登場人物の書き分けが上手」などと高く評価された。選奨(佳作)には古林邦和さん(64)=鳥取県倉吉市=の「和解」が選ばれた。


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| 「子どもたちが父親の生き方を知りたいと言っている。小説を通じて示していきたい」と語る永田さん=宮崎県都城市立図書館 |
「都城には地元でも知られていない歴史が多くある。著名な人物でなくても、生きて、欲望を持ち、悩み苦しんだ人は必ずいる」。地元の歴史を掘り起こしたいと、時代小説を書き始めて3年余りでの受賞となった。「感激でいっぱいだが、私でいいのだろうか」と驚きを隠さない。
「光芒」は薩摩藩・島津家の史実に基づく。相州島津家当主の島津運久(ゆきひさ)は、伊作島津家当主の未亡人である常盤と結婚し常盤の子を後継ぎとした。だが運久には側室との間に男子2人がいたとされる。
「2人は運久と常盤にとって邪魔な存在となり、殺されたに違いない。しかし、そんな話は抹殺されたのか残されていない。せめて1人を作品に取り上げたいと思った」。都城は島津姓発祥の地。島津家の系譜を調べていた永田さんはこの史実に着目し、作品に仕上げた。
作品では、運久と側室お香の子である九郎の殺害を命じられた運久隊の“特攻隊長”財部美樹が寝返り、運久隊の追撃を逃れながら九郎を比叡山延暦寺へ送り届けた後、絶命する。美樹はお香に恋心を抱いていたが、私利私欲を決して表に出さなかった。部下からの人望も厚く「サムライであり、男なのである」と書かれている。
永田さんは美樹の人物像について、第2次世界大戦で都城を基地にした特攻隊のイメージを膨らませて描いたという。「国のため、愛する家族らのため、命を犠牲にして戦った」。隊員が出撃前夜に杯を挙げた市内の旧料亭に足を運んでは、彼らに思いをはせて美樹に投影した。
小学生のころ、芥川竜之介や太宰治の作品を読み、小説家に憧れた。20年ほど前には、漫画雑誌の原作公募で最高賞を受賞した経験を持つ。転機は2007年に患った急性糖尿病だった。自宅で倒れ救急車で搬送される際、動かない体に初めて死を意識した。「人生で何かを残したい」と、本格的に執筆活動を始めた。
自宅の学習塾で小中高生16人を相手に教える傍ら、執筆に励んでいる。パソコンのキーボードを15時間ほど打ち続けることもあるが、「受賞を聞いてからは筆が遅くなった。これまで怖いもの知らずで書いていたのかもしれない」と苦笑いを浮かべる。
早大中退後、都城市の瓦製造会社の役員などを務めた。妻、次女との3人暮らし。長男は山口県、長女は熊本県でそれぞれ独立している。


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| 「書くときは何も考えず、無心になっていますね」と語る古林さん=鳥取市倉吉市の自宅 |
さきがけ文学賞には2005年に続き、2度目の応募。前回は選外という結果に終わっただけに、受賞の知らせを聞き、「あの時のリベンジを果たせたようなものかな」と顔をほころばせた。
主人公は、父親が残した小説作品で頻繁に登場するヒロインの「女」を手掛かりに、父親の過去を探す旅に出掛ける。父親の郷里で教えられた戦災孤児という自らの出自。そして父親宛ての手紙から、カンボジアにもう一人の息子がいることを知る。息子に会いに行くことを決意し、そこで初めて父親が小説を書いた本当の意味に気付く。「父親を一人の男として描きたかったのと、父親が本来持つ心の温かさを伝えたかった」と振り返る。
北海道の公立高校に英語教諭として約30年間勤務。ベトナム・ホーチミン市の日本語学校で教師を務めた02年から、本格的に小説を書き始めた。過去の作品が東南アジアを舞台としているのは、この時の経験が元になっている。「原風景的な懐かしさと、言葉が分からなくても心が通じ合いそうな感覚に強く引かれる」という。
受賞作品は昨春から10カ月ほどで書き上げた。カンボジアの路地裏の雑多な雰囲気や人々の様子を、実に細やかな表現で伝えている。思ったことや感じたことをそのまま書き記しながら、全体のストーリーを組み立てて作品を仕立てるという。今年5月に札幌市から実家のある倉吉市に転居。作品自体はフィクションでも、実家近くの防空壕(ごう)など実在する場所が織り込まれている。
小説を書き始めて約10年。「自分の小説に常々何かが足りないと思いながら作品を書いているが、答えを見つけられずにいる。この作業がなかなか終わらない」と笑う。未完成の推理小説を完成させるのが次の目標だ。
倉吉市生まれ。広島大卒。


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| 最終候補5作品について意見を述べ合う(左から)高井有一さん、西木正明さん、北原亞以子さん=東京・銀座 |
10代から80代までの年齢層から過去3番目に多い244編の応募があった。本県からは13編。県外では東京42編、神奈川22編、埼玉21編の順に多かった。海外からは2編が寄せられた。最終選考に残った「出会いの妙(みょう)」「和解」「おまけ絵紙(えがみ)」「光芒」「いっしょに柔道」の5編(応募順)を対象に、高井有一さん、西木正明さん、北原亞衣子さんの3人が審査し、「光芒」を入選、「和解」を選奨と決定した。講評では「前半は良いが、後半に持続力がなくなるような作品が多い」などの指摘があった。
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入選の「光芒」は、薩摩の相州島津家当主と側室の間に生まれた男児を命の危険から守るため、付き人らが比叡山まで逃走させる過程で起こる出来事を描く。一行は、この側室を伴った島津武闘派の武将らと合流。武将の本意に懐疑の念を抱きながらも、次第に心を通わせるようになる。
武将は、村役人にめとられた末に短い一生を終えた幼なじみの影を側室に見ていた。物語は、武将と周囲の心の交流に回想を交えて展開。一行の信頼を勝ち得た武将は、追っ手との交戦の末、目指した比叡山・延暦寺で絶命する。
選考では「結末が安易。題名にも工夫が必要」「どこからが武将の回想か分からない」などの指摘があったが、「久しぶりに面白い講談を読んだ。『ステがマリ』など実際にあった戦い方が出てくるなど、違和感なく読むことができる」「人間の書き分けが上手」などと評価された。
選奨の「和解」は、父が書き残した小説に描かれた女性が誰かを突き止めるため、父の故郷などを訪ねた主人公の男性が、出生の秘密にたどり着く物語。
主人公は、故郷の住民に幼少時代の自分の様子を教えてもらったほか、父の生家でカンボジアに住む男性から父に宛てられたクメール語の手紙を発見する。手紙を手掛かりに訪れたカンボジアで弟と再会、2人が父と現地の母との間に生まれたことを知る。
選考では「展開が強引。話の流れを大切にしてほしい」「つじつまを合わせるため、途中から取りまとめにかかった感じ」と批判もあったが、「前半はミステリーのよう。緊張感やスピード感があって見事だ」「情景が見えるような文章」などの評価を得た。
選外の3編については「文章は読みやすいが、主人公の秋田藩江戸留守居役の戯作(げさく)者に魅力がない。実在の人物なのだから人間をしっかり描いてほしい。歴史物でありながら言葉や設定にも間違いがある」(「出会いの妙」)、「富山の薬について書く志は買うが、藩の経済にもっと触れられれば面白かった。藩主と絵師だけの話で物語が小さくなった。面白くなりそうと思うたびに期待を裏切られた」(「おまけ絵紙」)、「読みやすく、いろんなタイプの高校生を登場させるなど工夫もしているが、どこかで読んだような出来事の羅列に終わっている。しっかりした物語の組み立てが必要だ」(「いっしょに柔道」)などの指摘があった。

高井 有一さん
現代小説に良い作品を期待したが、今回も無理だった。時代物は割と形が決まっているので当たり前の言葉を使って書けているのだが、現代物の具合が悪い。残念だ。何とかならないものかと思う。
西木 正明さん
文章に問題のある作品が目立った。賞に応募する際、どんな書き方をすればいいのかという基本を踏まえていないものもある。一方で、少し力を入れれば良くなる作品もある。両極端に分かれた感じ。
北原 亞以子さん
時代物をやるんだったら、もう少し考えてほしい、という作品があった。自分が書いているから厳しく見ているということではなく、期待しているのだから。今回は、むしろ現代物に魅力を感じた。
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