[第9回]

シスパーレ、分岐点となった山

(2017年1月6日 掲載)

 足元に大きく開いたクレバスをおそるおそる覗き込む。雪面は太陽が照ってこんなにもまぶしいのに、クレバスの底には光の届かぬ深い漆黒がある。

 K2登頂から1年後の2007年夏、パキスタン北西部の峻峰、7611メートルのシスパーレ北壁を目指した。シスパーレは標高こそK2より低いが、挑戦する北壁は未踏のルートであり、難易度の高い登山だった。

 とうもろこし畑の点在する標高約4000メートルの谷あいの村で車を降りる。シスパーレのベースキャンプ(BC)までここから2日の距離だ。畑作と牧畜を生業とするこの村では、夏の間、BC周辺まで牛やヤギの放牧を行っているという。村人にBCまでの先導と荷運びをお願いした。起伏に富んだ足場の悪い谷の道は、動物と人間とによって踏み固められていた。その道の土の硬さや点在する石積みの小屋を見るとき、この土地に営まれてきた暮らしの長さを思うのだった。

朝日に照らされたシスパーレ北壁。氷河上部の雪原より