新たな治療法と10年生存率

(2022年2月26日 付)

新薬が続々登場、ガイドラインも毎年書き換え

 国立がん研究センターが昨年11月に発表したデータによると、2005~08年にがんと診断された人の10年後の相対生存率は、がん全体で58・9%となっています。データを取り始めた1990年代末から相対生存率は伸び続けていますが、前回集計の04~07年と比較すると0・6ポイントの上昇にとどまっています。部位別で相対生存率が高いのは、前立腺がん(99・2%)乳がん(87・5%)、甲状腺がん(86・8%)。一方で低いのは、発見の難しい膵臓(すいぞう)がん(6・6%)や肝がん(17・6%)、胆のう・胆管がん(19・8%)でした。また、11~13年に診断された人の5年後の相対生存率は、がん全体で68・9%でした。

数年先の生存率は さらに伸びる可能性

 実はここ数年、がんの標準治療となるガイドラインが毎年書き換えられており、5年前と比較しても肺・胃・大腸の各がんなどは、毎年新しい薬が承認されています。現場で治療にあたっている我々医師にしてみると、10年前のデータをもとにした相対生存率の結果は「伸びが少ない」というのが実感です。例えば10年前の肺がんや大腸がんは、進行期のものに関しては薬の数が今より半分以下でした。さらに免疫チェックポイント阻害剤、分子標的薬が登場し、抗がん剤との組み合わせなど治療も進歩しています。この先に発表されるデータは、もっと生存率が良くなっていることが期待されるのです。

 進行期のがん治療については、以前は2次治療ぐらいまでしか標準治療がなかったものが、現在は5次治療ぐらいまでできるようになりました。2次治療までの頃は生存期間の中央値は1年ぐらいでした。しかし今は胃がん・大腸がん・肺がんなどではもっと長期に治療を受けられるようになっています。一部の人は、免疫チェックポイント阻害剤など新しいがんの免疫療法を受け、予後が良くなっているというデータが出ています。この免疫チェックポイント阻害剤は、がんの種類を越えてどんどん適用が広がっていて、ステージⅣと診断された方も生存期間が延びてきています。

「最新治療」よりも 最先端の標準治療

 このように、最新の治療法や薬がどんどん登場しているわけですが、「秋田では新しい治療が受けられないのでは」と勘違いしている人が少なくありません。今は世界中で臨床試験が行われた抗がん剤や薬が日本国内で承認されれば、もちろん秋田でもすぐに使えます。

 そして標準治療に対する認識も「お弁当でいったら松竹梅の竹くらい」と、間違っている人がいます。標準治療は、臨床試験を勝ち残ってきたチャンピオンで、チャンピオンになって初めて〝標準〟という称号が与えられます。「最新治療」はもちろんありますが、臨床試験などでまだ勝ち残れるか分からないチャレンジャー。標準治療は、勝ち組の治療法や薬だけが残ったものなので、「現在の証明書付きの最先端治療」になるというわけです。インターネットなどの根拠のない情報には惑わされないでください。新型コロナワクチンも当初は世界各国で作られていましたが、現在使われているのは勝ち残った数種類です。標準治療の内容が書かれているガイドラインは一般の人でも読めますので、どんな根拠でチャンピオンになったかを一度、見てほしいと思います。

 秋田の皆さんが少しでも長生きをするために重要になるのは、やはりがんの予防・検診です。いくら医療が進歩していても、ステージⅣになるまでがんを放置してしまうと治すのは難しくなります。食生活の改善や禁煙など、がんにならないような生活を送り、検診で早めにがんを見つけることができれば、完治することも可能です。また、日常生活を健康的にするのにはお金はかかりませんが、がんの治療となると治療費がかかります。治療費の高さを考えれば、検診費用は安いものではないでしょうか。改めて予防と検診について考えてみてください。