世界禁煙デー秋田フォーラム2022「改めて考えるたばこの害」

(2022年7月9日 付)

遅くない、思い立ったら禁煙を

 「世界禁煙デー秋田フォーラム2022」(主催=県、県医師会、協会けんぽ秋田支部、秋田・たばこ問題を考える会)がこのほど、秋田市のにぎわい交流館AUで開かれた。「改めて考えるタバコの害」をテーマにしたフォーラムでは、麻酔科医の視点で見るたばこの害についての基調講演や、タレント・マティログさんによる禁煙チャレンジの対談などが行われ、参加した70人の聴講者は改めて県内に禁煙の輪を広げることを誓い合っていた。

基調講演:禁煙、前向きに生きるためのちょっとした勇気~麻酔科医の視点から~

手術前からの禁煙有効

秋田大学医学部付属病院麻酔科
鵜沼 篤医師

 禁煙の鍵を握るのは、本人の「禁煙する」という強い意思が大切ですが、例えば健康寿命を延ばし、さまざまなことに挑戦したい、一家だんらんの時間を大切にしたいなど、その先にある良いイメージを抱いてみてはどうでしょうか。禁煙は、プロセスです。ちょっとした勇気で一歩前に踏み出せば、皆さんにとって新しい世界が広がると期待します。

 麻酔科医の私が禁煙、たばこについて話す理由は、喫煙は手術や麻酔に悪い影響を与えるからです。麻酔科医は薬や機材などを使い、痛みや不安を取り除き、患者さんが安全に手術を受けることのできるサポートをしています。呼吸管理や循環器管理も担いますが、喫煙によって汚れてしまった気道や肺に呼吸の管を入れ、人工呼吸で調整したり、喫煙によって動脈硬化が進行した血管が原因で心筋梗塞や脳梗塞にならないよう、血圧を管理したりしなければならない場合もあります。

 手術前から手術後の一連の期間「周術期医療」の目標は、患者さんの良好な社会復帰だと考えます。そのためには手術が決まった入院前の段階から患者さんにも協力してもらう必要があります。早期からの禁煙は、より早い社会復帰につながります。日本麻酔科学会が発表した「周術期禁煙ガイドライン(2015年)」「周術期禁煙プラクティカルガイド(2021年)」によると、手術前はいつの段階からでも禁煙を開始することに意義があるとされています。できれば4週間以上、呼吸器の合併症を考えれば8週間以上の禁煙が推奨されています。

術中、術後の合併症に差

 禁煙期間が2カ月未満の場合は術中の痰の量が多くなるというデータがあります。また、日本循環器学会の禁煙ガイドラインによると、喫煙者は非喫煙者よりも術中の呼吸器の合併症が増え、さらに若年者はより増えるという結果が紹介されています。喫煙者は術後の回復も遅れます。術後の合併症として呼吸器の発症率や創感染や感染症、集中治療室に入る確率も上がります。

 近年登場した加熱式たばこも危険です。手術を受ける方は手術の前にやめてほしいと思います。依存性物質のニコチンが入っているのはもちろん、副流煙もあります。添加物(香料)は加熱すると気体となって吸い込むことができますが、常温になるとベタベタになる成分が含まれています。さらに手術後、痛みが強く感じられるといった傾向があり、慢性痛に移行するケースも見られます。

 近年では禁煙治療が変わってきています。禁煙の意思さえあれば、ほぼ全ての喫煙者が対象になります。加熱式たばこも対象です。コロナ禍で遠隔医療やデジタル化が推進されました。かかりつけ医がいれば、全5回の診療をオンラインで完結できる制度も導入され、保険適応となっています。また、対面の禁煙治療の中で医師が禁煙に関係する"アプリ"を処方し、患者さんが自宅で毎日アプリと向き合うことで禁煙治療を続けることができるようになりました。従来通りの診察、薬による治療に加え、アプリでの手厚いサポートと、より効果的な禁煙治療の環境が整ってきています。

 最後に、もう一度大事なことを繰り返します。喫煙で周術期の合併症は増えます。そして術後の回復は遅れてしまいます。手術を万全な状態で受けられるように準備することは、禁煙のきっかけづくりにもつながるでしょう。また、今が健康でも、より良い将来のために禁煙を考えてもらえればと思います。

禁煙対談:禁煙でつかもう!MYベストライフ!

〈ゲスト〉マティログさん(タレント、経営者)
〈ホスト〉二田幸子さん、佐賀麻衣子さん(秋田・たばこ問題を考える会)

家族や友人に宣言

マティログさん

 二田 協会けんぽ秋田支部では、県の健康寿命日本一に向けた活動に合わせ、日常の中で手軽にできる健康づくりを動画で紹介する「ヘルシーチャレンジ」を制作しました。マティログさんはこの動画に出演し、禁煙に挑戦していましたね。

 マティログ もともと隠れてたばこを吸っていたのですが、この話をいただいて「いい機会」と思い禁煙することにしました。禁煙を考えている人にオススメしたいのは、家族や友人など周りの人たちに宣言してしまうこと。そうすると、簡単に挫折できません。

 結果、気が付けば去年の3月2日からたばこを1本も吸っていません。指導を受けた医師も話していましたが、「吸ってはだめ」と思うと脳が欲しているものと錯覚するので、禁煙生活をすることでどんな明るい未来が待っているのかを考えることが大事です。禁煙補助薬のニコチンパッチの効果もあり、無理なく禁煙に成功できました。

 佐賀 マティログさんは禁煙して体重に変化はありましたか?

 マティログ 少し増えました。ヘルシーチャレンジでは、禁煙に加えて運動と減塩も平行して行ったので見た目はすっきりしていますので筋肉が増えた影響もあるかと思います。禁煙すると味覚に変化が出て、食べ物がおいしく感じます。

 二田 禁煙中は吸いたい気持ちもあったかと思いますが、どうやって乗り越えたのですか。

 マティログ 経営者の集まりに参加すると、周囲に喫煙する人が多く、自分の中に「1本ならいい」という〝1本おばけ〟が出てきます。そんなときは「誘惑に負けないぞ。いつかやめるんだったら今だ」と強い気持ちを持ちました。

 佐賀 禁煙して良かったことは。

 マティログ 自分の子どもに、パパはたばこを吸ってないよと自慢できます。もう一つは「受動喫煙をさせない」という時代の流れについて行っていると思えることです。そして何より、ごはんがおいしくなりました。食事は本来の素材のうまみが感じられるようになったので、薄味でも良くなり、生活習慣の予防にもつながっていると感じます

「禁煙かっこいい」に

 二田 最後に、禁煙を考えたり悩んでいる人に向けてメッセージをお願いします。

 マティログ ダラダラとやる禁煙は成功しません。やはり、やり遂げる覚悟が必要だと思います。私はカメラの前でたばこを折ったことも、覚悟の一つになりました。そして「愛煙家」という言葉はやめて、もっとかっこ悪いイメージになる表現に変えればいいと思います。これからは秋田の禁煙率を下げるためにも「禁煙がかっこいい時代」になるような運動を展開していきたいです。