10月はピンクリボン月間 女性のがんについて

(2022年10月29日 付)

早期発見・早期治療へ─自分の乳房、意識して生活を

「ブレスト・アウェアネス」が重要

高橋 絵梨子 医師の写真
秋田大学大学院医学系研究科
胸部外科学講座
乳腺・内分泌外科
高橋 絵梨子 医師

 乳がんは女性が罹患(りかん)するがんの中で最も多いがんであり、年間約12万人の日本人女性が新たに乳がんと診断されています。本県では、年間約800人が乳がんに罹患しており増加傾向です。年代については30代後半から急増、40代後半、60代にピークがあります。

 治療法が手術だけだった昔に比べ、より良い予後を目指した乳がんの薬物療法は飛躍的に進化しており、患者さんそれぞれの乳がんのタイプによって治療内容を選択できる時代になりました。また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子であるBRCA遺伝子異常を有する場合、今まで転移・再発乳がんに対して使用可能であった「PARP阻害剤」が、今年8月からは再発高リスクの乳がんの術後薬物療法としても適応拡大になりました。2020年4月からは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群における将来的な乳がん・卵巣がんを予防するためのリスク低減手術が保険適応となっています。

 乳がんは、早期発見・早期治療ができれば治りやすいがんです。そのためには、自身の乳房の状態に日頃から関心を持ち、乳房を意識して生活する「ブレスト・アウェアネス」が重要視されています。具体的に以下四つのことを実践しましょう。

 (1)日頃から自分の乳房を見て、触って、感じる(セルフチェック)

 (2)気をつけなければいけない乳房の変化を知る(腫瘍、乳頭からの血性分泌物、乳頭や乳輪のびらん、皮膚のへこみや引き連れ)

 (3)乳房の変化を感じたら、速やかに医療機関を受診

 (4)40歳になったら、2年に一度定期的に検診を受診

 乳房のセルフチェックは、入浴時や着替えのときなどに行うのがお勧め。「ブレスト・アウェアネス」を心掛けることで、自分の乳房に対する関心や意識が高まり、変化があった際はすぐに医療機関を受診するなどの適切な行動を取ることが習慣付くようになります。

自覚症状ある場合、速やかに受診を

 セルフチェックさえしていれば検診を受けなくてもいいというものではなく、40歳以降は定期的な検診を受けることが重要です。乳がんであっても、しこりの位置や乳房の構成(乳腺と脂肪の割合)によってはマンモグラフィで発見されにくい場合があります。検診で精密検査の必要がないと判定された場合でも、しこりや血性の乳頭分泌などの自覚症状がある場合は、放置せずに速やかに医療機関を受診することが大事です。

 乳がんが増える年代は、家庭や仕事、子育て、介護などを同時進行で抱え込まなければいけない女性も多く、自分のことは常に後回しにし、検診に行く時間すらもったいないと感じる人も少なくないと思います。「もし乳がんと分かったら…」と、恐怖とともに治療にかかる時間、費用などへの不安もあるでしょう。さらに乳房喪失というイメージもあり、治療そのものに対して否定的な気持ちになる人もいるかもしれません。しかし、乳がんは早期発見・早期治療が非常に重要で、ステージ1では10年生存率は90%以上と、がんの中でも乳がんは治りやすい部類に入っています。

秋田県における女性の年齢階級別・乳がん罹患数(上皮内がん含む)

 女性特有のがんは働く世代がかかる割合も高くなっており、さまざまな支援も増えています。外見のケアにはウィッグ・乳房補正具購入費用助成制度、費用・給料に関する悩みには高額療養費制度や傷病手当金、医療機関とハローワークが提携する就労支援などです。AYA世代の患者さんには、子どもを授かる可能性を残す治療「妊よう性温存治療」の助成があります。

 価値観や生活など、それぞれの患者さんの背景は異なります。近年は、治療方針を話し合い、その最終決定を医師と患者がともに行うプロセスを指す「シェアード・ディシジョン・メイキング」が重要視されています。

 毎年10月は、世界的な乳がん啓発月間です。ぜひ、自分のおっぱいに関心を向ける機会にしてください。

実践しよう!乳がんのセルフチェック
秋田県からのお知らせ