寄り添い、支える 両立支援のための職場づくり

(2022年11月26日 付)

再発でも「治療休暇」で仕事継続

思いもよらなかった「再発」

篠崎 由紀子 総務課長
公益財団法人 平野政吉美術財団
篠崎 由紀子 総務課長
特定社会保険労務士

 今年の6月、左脇のリンパ節にがんの転移が見つかりました。私は2019年に乳がんに罹患(りかん)。左乳房を全摘手術後、仕事復帰して治療を続けていましたが、医師には「おとなしいがん」と言われていたので、再発なんてしないと考えていました。「転移」を耳にした瞬間、目の前のシャッターが下りるようなショックと、「余命」という言葉が頭に浮かびました。

 私は、県立美術館(秋田市)の管理運営を担う「平野政吉美術財団」の総務課長として職員の労務管理などを行っているほか、特定社会保険労務士の資格もあります。今は、2人に1人ががんになる時代。がん患者・経験者の就労問題としては、依願退職や解雇など、仕事を失うケースも少なくありません。最初に乳がんになったとき、後にがんを患った職員にも「仕事と治療の支援」が必要だと感じ、この二つが両立できる仕組みを職場内に取り入れました。

 就業規則を改正し、半日単位で取得できる有給の治療休暇(年7日間)や2年で消費する有給休暇を40日を限度に積み立て、本人の治療だけでなく、家族の看護にも利用できるようにしました。これらの取り組みが評価され、厚生労働省が発行する「特別休暇制度導入事例集2022」に掲載されることが決まりました。

 「がんになった自分だからこそできる支援を作っていこう」と、張り切っていた矢先に告知されたがんの再発。さらに検査で、肺に5ミリのがんのようなものも見つかり「思い上がっていたのかな」と落ち込みました。そのとき、お寺の副住職に「長く生きるのが人生じゃなく、人に感謝してもらえるような生き方をしたら」と言われ、気持ちが落ち着きました。

 開き直って手術をしたら、肺にあったものはがんではなく、再発部分である左脇のリンパ節郭清手術も成功。手術から10日後には通常通りの仕事に復帰できました。でも、病気の症状や仕事内容などには個人差があるので、手術からどのくらいで仕事復帰できるかは人それぞれだと思います

がん患者・経験者の就労の状況

育児休業のようなシステムに

 私が一番訴えたいのは、がんになったり、さらに再発しても仕事を続けるのは諦めてほしくないということです。がんの治療は飛躍的に進歩していて、毎年のように新たな治療法や薬が開発されており、治療を受けながら普段の生活を送ることができるようになりました。しかし一方で、治療費がとてもかかるので収入は必要です。そして治療をしながら仕事を続けるためには、第一に職場の理解が必要で「病気はお互いさま」という考えが大事になります。「治療休暇」として、今は当たり前のように取得できる育児休業と同じような手厚いシステムがこれからの時代は必要になってくると思います。

 がんになった場合、「何から手をつければいいのか分からない」と戸惑う人も少なくないのではないでしょうか。仕事やお金、治療などについて正しい情報を探すには▼国立がん研究センター「がん情報サービス」(がん情報を検索する入り口)のウェブサイト▼秋田県公式「美の国秋田ネット(がん医療・患者支援)」(県内がん患者の支援・医療用補正具購入助成金情報など)の利用をお勧めします。例えば、美の国秋田ネットの中にある「がん制度ドック」をクリックすると、がんの種類や病状、就業状況、保険加入状況といった項目に答えることで、利用できる可能性のある公的支援制度などを知ることができます。

 今、私は放射線治療を終え、ホルモン療法や分子標的薬の治療を行いながら仕事を続けています。今後は社労士の立場も生かしながら、がん患者が利用できる支援制度などの知識を広める活動もしていきたいと思います。がんが再発しても、前向きな気持ちで働いている人はたくさんいます! 1人で悩まず、ますは相談してください。

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