遠い風近い風[小嵐九八郎]書いて歌う場所を探して

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 作家仲間と飲むと「一日の書き始めがしんどい」、「そう、最初の一行を書きだすまでが地獄」、「うん、初動のために、散歩をしたり、しなくてもいい洗濯をしたりと苦しい」という話題がテーマになる。

 陸(ろく)な作家になれなかった俺も30年と少しの間、最初の一行というより一文字を書くまで悶悶(もんもん)としてきた。作家になって3カ月ほどは、物置だった部屋を片づけて書斎と称し、張り切っていたけれど、すぐに部屋に入るのが億劫(おっくう)となってしまい、喫茶店で書くようになった。但(ただ)し、夜8時となって酒が恋しくなると、赤提灯(ちょうちん)に行く。むろん、酒ゆえに楽しくなり、スムーズほどではないが、筆が軽くなる。軽くなり過ぎ、酒が醒(さ)めての次の日の朝、誤字脱字の多さや余計なラブシーンに頭を抱えることも屡屡(しばしば)だ。

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