遠い風近い風[小嵐九八郎]景色と温泉のつれづれ

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 アルバイト先の私大の文芸学科のゼミ生が、卒業を前に仕事場に遊びにきた。餞(はなむけ)に「失敗や負けや挫折は、糧(かて)であり宝だ」と例年のごとく、しかつめらしい言葉だがなまじ嘘(うそ)ではないことを喋(しゃべ)った。ついでに「4月から社会人で働くしかないわけで、今のうちに旅を。詩歌や小説の舞台でも使えるように、旅先の地の食い物、土着語、町並み、繁華街、自然を心に刻んでくると良い。スマホは一旦(いったん)捨てて、カメラも置いて、眼(め)、鼻、耳、手触りで」と言った。

 ま、俺もかつて原稿のきつい生産に追われていた頃は、取材はアシスタントとか娘に任せて、彼女らが撮ってきた写真を見ながら書いていたわけで、良い加減な性格なのである。

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