遠い風近い風[小嵐九八郎]最も冷える声

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 一年で一番暑い時とは知りながら、小学校の5年生だったか山形から転校して川崎に来たK君と夕方、私鉄の駅の改札口で会い、軽く一杯やった。いくら「産(う)めよ殖(ふ)やせよ」の世代といってもK君は八男坊ではないのに「八郎」の名である。そういえば、ハチロー、八介、八雄という名はけっこうある。末広がりで目出度(めでた)い名なのだろう。

 汗で下着までぐっしょりになって会う場所へと行く途中、花屋があり、秋植えの種とか球根を物色したがなく、あれ、花の名を記した札もない。淋(さび)しい。

 駅前の小さい本屋に寄って岩波文庫を買おうとしたが、そうだった、2年前に店は消えた。

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