遠い風近い風[十田撓子]最初で最後の詩集

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 いま私の傍らに、箱に入った小型の本がある。水色の箱は色あせて所々変色しているが、薄葉紙(うすようし)に包まれた本体は意外にきれいで、年月を経たたたずまいは、周囲の雑音を静めるかのようだ。

 全5章69編の詩が収められたこの本の奥付を開く。「原民喜詩集は…水色ラシャ紙の背に證券(しょうけん)用紙装の上製箱入本…五百部を限定刊行したが、本書はその第372冊である」。372の部分は青色のナンバリングスタンプが押されてある。「発行 細川書店 昭和26年7月31日」

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