社説:水道法改正案 民営化で大丈夫なのか

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 今国会の重要法案の一つである水道法改正案が、参院で与党に野党の一部を加えた賛成多数で可決された。自治体が水道事業の運営を民間企業に委託しやすくすることなどを盛り込んだ。与党はきょうにも衆院で可決、成立させる構えだ。

 改正法案は、老朽化が進む水道事業の経営基盤強化に向けて自治体の広域連携を図るほか、自治体が運営権を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入を促進する内容だ。人口減少による自治体の水道事業悪化に対応するとしているが、住民の生命に関わる事業を民間に任せて大丈夫なのか。審議は不十分であり、懸念が払拭(ふっしょく)されたとは言い難い。

 コンセッション方式は民間資金を活用した社会資本整備の一つ。宮城県や浜松市、大阪市などが導入を検討している。同県の村井嘉浩知事は国会の参考人質疑で、この方式を導入すれば大幅なコスト削減が見込まれ、県民のメリットにつながるなどと強調した。改正法が成立すれば、民間委託の動きが加速する可能性がある。

 海外に水道事業を民営化した国は多いが、結局問題が起きて公営に戻す例が目立つ。例えばパリ市は1984年に「水メジャー」と呼ばれるヴェオリア社などとコンセッション契約を結んだが、料金が3・5倍にも跳ね上がったため、25年ほどたってから再び公営化したという。このほか民営化が水質悪化などをもたらし、公営に戻った国もある。

 政府は果たしてこうした世界の動きを把握し、民営化の是非を十分に見極めたのだろうか。菅義偉官房長官は「安全な水の安定供給を維持していくため、水道の基盤強化を図る」と法改正の意義を強調しているが、失敗した場合のリスクは大きい。国民の暮らしに大きな影響を与えかねないだけに、慎重さが求められる。

 ヴェオリア社の日本法人から内閣府に関係者が政策調査員として出向しているのも不自然だ。参院厚生労働委員会で野党議員がこのことを取り上げて「利害関係者であり、公平性がない」と指摘したのは当然だろう。これでは特定の企業のために導入するのではないかと勘繰られても仕方がない。

 自治体が水道という重要インフラを海外企業に明け渡し、コントロールできなくなるような事態だけは避けなければならない。コンセッション契約を結んだ企業のサービスに問題があると後に判明したため契約を解消したいと思っても、その際は多額の違約金を請求される恐れもあると注意を呼び掛ける識者もいる。

 日本は自然災害が多く、水道設備が大きな被害を受けることも少なくない。災害時の対応は大きな懸念材料だ。そもそも採算重視の民間経営に水道事業はなじむのか。疑問点を残したままの改正法成立は禍根を残す。