北斗星(12月7日付)

お気に入りに登録

 見ているだけで寒さが伝わってくるような絵がある。江戸時代の俳人で絵師としても活躍した与謝蕪村の双幅「鳶鴉(とびからす)図」だ。このうち「鴉図」は雪の降る中、樹上でじっと身を寄せ合う2羽の鴉の肩が角張り、寒さに首をすくめているようにも見える

▼この絵は本紙土曜文化欄「遠い風近い風」の筆者でもある作家・小嵐九八郎さんの近刊「蕪村」(講談社)の表紙に使われている。句作はもちろんのこと、画業や書にも打ち込んだ蕪村の68年の生涯を丹念に描いた長編である

▼小説の副題になっている「己が身の闇より吼(ほえ)て夜半の秋」の句が繰り返し登場する。深い闇とでもいうべき少年期のある事件を解き明かしながら、蕪村の画・句・書の本質に迫っていく

▼鴉図は評論家・森本哲郎さんの著書「月は東に」(新潮文庫)の挿絵にも使われている。若き日の蕪村は松尾芭蕉の足跡をたどって東北を旅した。この本では八郎潟町夜叉袋の寺に泊まった折の句「涼しさに麦を月夜(つくよ)の卯兵衛哉(かな)」を紹介している

▼能代市出身の小嵐さんのこと、このエピソードも小説に登場するのでは―。期待して読んだが「出羽国の八郎潟のどでかい沼というか潟というか湖を見た」という一文のみでやや拍子抜けした

▼蕪村の生涯は秋田蘭画の佐竹曙山(しょざん)や小田野直武、旅の貴重なスケッチを数多く残した紀行家・菅江真澄が活躍した時代とも一部重なる。そんなことを思いながらページをめくると、蕪村がぐっと身近に感じられてきた。

外部リンク