北斗星(12月24日付)

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 どんな人も生まれつき備えている「人間性の樹」。これを育てるのが教育で最も大切なこと。3年前に88歳で亡くなった秋田市の元中学校長、船越準蔵さんが著書にそうつづった

▼定年退職後、生徒たちと向き合った長年の経験を基に、教育者の指針となる本を10冊刊行した。冒頭のメッセージは、そのうちの1冊「教師という恐ろしい仕事。」に書かれている。若いころ先輩の女性教諭から教わったものだという

▼人間性を高める教育を抜きに、ひたすら知識習得の競争に追い込まれた子どもは身に付けた知識を、人をだまし、蹴落とし、傷つけることに使う大人になってしまいかねない。だからこそ学校では互いを思いやり、助け合うことの大切さを繰り返し伝える必要があると記す。忘れてはならない警鐘だ

▼人間性の樹はどうなってしまったのか。今年そんな危惧を覚えた出来事に障害者雇用水増し問題が挙げられる。単に視力が悪い人などを勝手に障害者と算定。障害者雇用率を不正に高め、目標が達成されているように見せかけていた

▼実施していたのが旗振り役の厚生労働省など中央省庁や地方自治体。ところが厚労省は「処分に値する違法な行為はない」とおとがめなしだった。他の省庁も倣い、本県もその流れに沿った。けじめのない幕引きは障害者の尊厳を傷つけた

▼これでは多様性を認め合う共生社会の実現など程遠い。船越さんが生きていたらこう言うのではないか。人間性の樹の再生が必要だ。