遠い風近い風[井川直子]生魚と町鮨

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 先日取材した江戸前鮨(ずし)の三代目が、突然「19歳まで生魚を食べられなかった」と告白した。誰かが握ったお鮨(すし)は信用できない。でも今は大好物。なぜなら自分が握っているから、という冗談のような実話である。

 信用できない。つまり加熱していない魚が、自分の身体(からだ)に何か嫌なことを起こしそうだ、と察知できたのだ。そんな風に子どもは本能に素直で、だからこそ疑い深く、根拠が無くても的を射られるアンテナを持つ。

 実は私もまた、生魚が苦手な子どもだった。せっかく秋田の地元のお鮨屋に行っても、何でも好きなものを頼んでよしと言われても、「梅しそ巻き、納豆巻き、筋子巻き」の巻き物無限ループ。生魚嫌いに加えて、海苔(のり)好きだったせいもある。

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