社説:空き家の公費解体 納税者に説明を尽くせ

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 湯沢市は、所有者がおらず廃虚となっている小安峡温泉のホテルの解体工事に着手した。2015年施行の空き家対策特別措置法に基づく「略式代執行」という措置で、県内自治体では初のケース。国の補助を除く市の経費負担はおよそ1億円に上る見通しだ。

 ホテルを経営していた会社は07年に廃業し、破産手続きを経て消滅した。建物は競売でも買い手が付かず、所有者がいなくなった。温泉街を代表する大規模な宿泊施設だったが、朽ちた建物の壁や屋根が周囲に被害を及ぼす恐れがあり、冬季には国道398号上に架かる渡り廊下からの雪庇(せっぴ)落下が危険視された。温泉街の景観も損ねており、地元集落は市に2度にわたり解体の要望書を提出していた。住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしかねないと解体に踏み切った市の判断は妥当だろう。

 ただし、公費を投入する以上は納税者の理解が欠かせない。市は議会と議論を重ねたほか、市の広報で市民に事情を伝えてきたという。略式代執行に当たり、自治体が解体理由を丁寧に説明するのは当然だ。住民理解が進むよう、どんなケースに公費を投入するかについて、分かりやすい基準を設けることも求められよう。

 言うまでもなく、空き家の管理は所有者の責任で行われるべきものだ。だが全ての所有者が適切に管理しているとは言えない現実がある。特措法は撤去が必要な建物の所有者が市区町村長の勧告や命令に従わない場合、行政代執行で自治体が強制的に建物を撤去できるようにした。費用は所有者に請求される。略式代執行は所有者不在の場合に公費を投入して行う。危険な建物を解体するためにやむを得ず実施する「最後の手段」だ。

 一般住宅を中心とした建築物の空き家問題は深刻化する一方だ。総務省が13年に実施した調査によると、全国の空き家は住宅全体の13・5%に当たる820万戸。7戸に1戸という驚くべき数字だ。人口減少に伴い、空き家は今後も増えると予想され、35年には32%に達するとの試算もある。

 各自治体は、移住者向けの住居や集会所、店舗など空き家の有効活用に知恵を絞るが、防災、治安、衛生などの点から解体・撤去せざるを得ない建物も相当数あるとみられる。県内でも市町村が把握している空き家1万7271戸(昨年5月時点)のうち、1176戸が倒壊の危険度が高いと判断された。

 身寄りのない高齢者が死亡した場合や、跡継ぎが地元に戻らず相続を放棄するケースなど、所有者不在の空き家は今後も増えるだろう。懸念されるのは、略式代執行が行われることで「空き家は行政が後始末してくれる」という誤解が広がることだ。それを防ぐため、空き家管理は原則、所有者の責務であることをあらためて説明していく必要がある。