社説:県内シカ分布拡大 農業被害防ぐ手だてを

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 県内では2000年ごろまで目撃されることがなかったニホンジカの分布域が急速に拡大している。小坂町と大潟村を除く23市町村で目撃されており、18年度は白神山地の本県側世界自然遺産地域で初めて確認されたほか、三種町とにかほ市では水稲の食害が見つかった。

 ニホンジカは繁殖力が強く、生息環境が良ければ急激に頭数を増やす。県内では16年度以降幼獣の目撃が毎年複数あることから、既に繁殖している可能性が高い。目撃情報は近年、年間80頭台で推移しているが、今後、農作物や造林木、自然植生などに被害が一気に拡大する恐れもあり、関係機関や農家らは警戒を強める必要がある。

 国の調査によると、北海道や東北、北陸地方で急速に分布域を広げている。狩猟圧力の低下や中山間地域での人間の活動域縮小、暖冬・少雪傾向に伴う生息適地の拡大などが背景にあると考えられる。

 国内の野生鳥獣による食害は17年度164億円に及んだが、鳥獣別ではニホンジカが55億円とトップでイノシシ(48億円)を上回った。本県の被害は18年度1万6千円と少ないが、いったん頭数が増えると駆除に力を入れても被害を抑え込むのは極めて難しいのが実態だ。

 お隣の岩手県では水稲や果樹、野菜などの農業被害が深刻化している。1990年代前半は約8500頭だったシカが約20年で4万頭に増えたと推計されている。農業被害は2013年度に3億円近くに達し、ここ数年は狩猟を含め毎年9千頭以上を駆除しているが、17年度も2億円近い被害があった。

 青森県にまたがる白神山地への影響も懸念される。遺産地域内では15年以降、青森側で2頭、本県側で1頭が確認されている。ただ本県側では遺産地域に近い場所での目撃情報が多い。遺産地域への群れの侵入を防ぎ、原生的なブナ林や多様な林床植生を守ることが最も重要だ。ダメージを受けた自然は簡単には元に戻らない。

 個体数の少ない今は、群れ形成の兆候をいかにつかむかが問われる。把握できれば、銃猟や囲いわなによる駆除や防護柵設置などの対策を特定地域で重点的に行うことができるからだ。

 県は、シカ被害の怖さと生息状況に関する情報提供の重要性について市町村や農林業関係団体を通じさまざまな方法で周知すべきだ。実効性を高めるには県民の協力も欠かせない。

 農業被害を未然に防ぐ手だてにも力点を置く時期だ。田畑への侵入を防ぐ電気柵の設置費用の補助など農家への支援も強化したい。さまざまな局面でどんな対策手法を施せば効果的なのか。被害地域の取り組みからも学べることは多いはずだ。

 県には、国、市町村、農業団体、猟友会などとネットワークを構築することを求めたい。現状に即した対策を迅速に行う体制づくりが急務だ。