社説:ベネチア美術展 秋田美大、発信の好機に

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 現代美術の祭典として知られるイタリアのベネチア・ビエンナーレ国際美術展が開幕した。「国別部門」には約90カ国が出展。日本館の展示は、国内コンペティションを勝ち抜いた秋田公立美術大の教員2人を含むチームが担当した。同大から同美術展への参加は初。これを機に同大を国内外に発信し、存在感を高めたい。

 「2年に1度」という開催周期を意味するイタリア語のビエンナーレは、多くの芸術祭の名に用いられている。その先駆けとなったのがベネチア・ビエンナーレだ。1895年から続く最も歴史ある国際美術展である。日本は1952年から毎回参加している。

 今回、日本館の展示を制作したのは秋田美大大学院の服部浩之准教授(40)、同大の石倉敏明准教授(44)ら5人のチーム。服部准教授が全体を束ねるキュレーター(展示企画者)を務めた。石倉准教授は人類学者で、他のメンバーは美術家、作曲家、建築家。

 全6チームが参加した国内コンペでは、服部准教授らが異分野同士でチームを組んだことが「編成に特色があり、これまでにない成果を期待した」などと評価された。

 展示テーマは「Cosmo―Eggs/宇宙の卵」。大津波によって海底から陸上に運ばれた各地の巨石「津波石」の映像が館内のスクリーンに映し出され、音楽が流れる中、石倉准教授が沖縄・八重山諸島で収集した民話が紹介される。

 発想の背景には東日本大震災がある。災害が多発する日本の表現者として、人と自然の関係を世界に向けて問い直すのが狙いだ。国別部門の金獅子賞(最優秀賞)受賞はならなかったが、11月までの会期中、どのような反響があるか注目したい。

 服部准教授と石倉准教授はともに同大の「アーツ&ルーツ専攻」の教員。地域の文化資源の調査研究を通じて新たな芸術表現を探求することを目指す。日本館の展示で、過去の災害の記憶をとどめる津波石や民話などを素材に、現代的な表現を試みたのも同じ考え方だ。同大生はもちろん、県内で活動する美術家も大いに刺激とし、新たな表現や発想を吸収してほしい。

 芸術を通じて地域の文化に光を当てることは、地域に新しい活力をもたらす可能性がある。芸術活動がイベントに発展すれば、地域おこしとして住民を挙げた取り組みになることもありえよう。

 ベネチアでの展示終了後、来春には東京・ブリヂストン美術館で「帰国展」が予定されている。「芸術文化のまちづくり」を掲げる秋田市も、規模は小さくても日本館の雰囲気を伝える展示や、服部准教授、石倉准教授によるトークなどの関連イベントを開いてはどうか。世界が注目する国際美術展の成果は、学生だけでなく市民にも大きな財産となるはずだ。