北斗星(5月15日付)

お気に入りに登録

 由利本荘市山内の三ツ方森は標高300メートルほどの丘陵地である。ちょうど藩政期の本荘、亀田、矢島の3藩の境界に位置することが地名の由来。麓から車で5分ほど坂を上ると、一気に視界が開ける

▼一見すると民家が見当たらず、そのまま通り過ぎてしまいそうになる。車道からは見えないが、モミジイチゴの花が咲く小道を下っていくと、隠れ里のような集落がある。ここで藩政期から5世帯が寄り添うように暮らしている

▼先月末は300年続くという山焼きが行われた。集会所が立つカヤ山の周辺に火を入れると炎が山肌をなめるように燃え広がっていき、一帯は徐々に黒く染まった

▼山焼きは牛馬が労働力だったころ餌となる牧草を採取する目的から各地で盛んに行われたものの、数少なくなった。だが灰を肥料に山菜もよく育つ。火入れした山肌はいま、極太でしなやかな無数のワラビに覆われているだろう

▼町内会長の猪股保さん(70)は「これからも残していきたい文化だ」と語る。当地も存続の危機を迎えたことがあったが、伝統を守ろうと近隣やボランティアでつくる「山焼きを残す会」が支えてきた。県立大の学生も助っ人として参加するようになった

▼晴れた日は奥羽山脈の山並みや鳥海山が一望でき、保呂羽山や八塩山は指呼の間。初めて訪れた人は、思わず歓声を上げるに違いない。よき伝統が息づき、よき支援者に恵まれた佳景の地である。ここで暮らすことがとてもぜいたくに思えてくる。