社説:旧優生保護法判決 被害者は納得できない

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 旧優生保護法の下で知的障害を理由に不妊手術を強いられた宮城県の60、70代の女性2人が国に計7150万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は旧法は違憲との判断を下す一方、国側の責任を認めず、請求を棄却した。

 地裁は旧優生保護法に基づく不妊手術について、個人の尊厳を踏みにじるもので誠に悲惨であり、憲法に違反していると断じた。その上で、日本ではこうしたことに関する法的議論の蓄積がなく、国会にとって損害賠償する立法措置が必要不可欠なことかどうかは明白ではなかったと判断。違法性は認めず、賠償責任は否定した。

 全国で係争中の訴訟の皮切りとなる判決だっただけに注目されたが、違憲であるとしながら国には責任がないとする司法判断には違和感を覚えざるを得ない。識者からは、国の怠慢を裁判所が認めたようなものだと批判的な声も上がっている。訴えた2人はもちろん、訴訟の行方を見守ってきた多くの被害者はやり切れない思いだろう。

 不法行為から20年で損害賠償請求権が自動的に消滅する「除斥期間」適用の是非も争点となった。国はこれを請求棄却の理由としていた。2人の女性に不妊手術が行われたのは40年以上前だったからだ。

 だが過去には、B型肝炎訴訟の判決で除斥期間の始まりを予防接種の感染時ではなく発症時に認定するなど、除斥期間の起算点を遅らせて救済の道を広げた例が幾つもある。それを参考に踏み込んだ司法判断を下せなかったものか。原告側は「裁判所が被害者に向き合い切れていない」と憤り、控訴する方針だ。他の訴訟も含め、引き続き注視していかなければならない。

 旧優生保護法は「不良な子孫の出生を防止する」との優生思想に基づき1948年に施行された。知的障害や精神疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶を認める内容だ。障害者差別との批判が高まり、96年に該当する条文が削除され、母体保護法に改定されたが、被害者救済への動きは鈍かった。国連から2016年に被害者が法的救済を受けられるよう勧告を受けたものの、国は「当時は適法だった」と応じなかった。

 風穴をあけたのが昨年1月に訴訟を提起した60代女性と追加提訴した70代女性の行動だ。大きな社会問題となり、徐々に被害実態が明らかになった。国会も被害救済に向けてようやく重い腰を上げ、被害者への一律320万円の一時金支給を柱とした救済法が先月成立した。

 だがこの救済法自体、国会審議で被害者からの意見聴取を行わずに決めたほか、国の法的責任にも触れておらず、一時金支給額を含め被害者には不満が渦巻いた。訴訟は長期化の様相を呈しているが、被害者の高齢化が進む。国会はいま一度被害者の声を聞き、国と国会が何をすべきか再検討するべきだ。