北斗星(6月21日付)

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 仕事から帰宅した父親が、紙包みを手にしている。長男は大喜びだ。欲しかったおもちゃを買って来たと早合点したのである。包みを開くと中身は食パン。「なんだい、こんなもん」と蹴飛ばす

▼小津安二郎監督の映画「麦秋」の一場面。父親は「食べる物を足で蹴るやつがあるか」と怒り、長男をたたく。長男は弟を連れ家を飛び出し、家族が近所を捜し回る。やっとのことで子どもたちが見つかると、父親はほっとした表情を浮かべる。「ホームドラマ」の名作とされるが、これからは子どもを叱る場面を巡って見方が変わるのかもしれない

▼親による「しつけ」を理由とした体罰を禁止する法律が成立した。背景には、東京都目黒区や千葉県野田市で親が執拗(しつよう)な暴力をふるった末、幼い子どもが犠牲になる事件が相次いだことがある

▼虐待で逮捕された父親たちは、子どもを死に追いやっておきながらしつけのためと供述し、反省の色が見えない。陰惨な児童虐待事件がこれ以上繰り返されてはならない

▼一方で、半数を超える人が体罰を容認し、子育て中の人の7割が体罰を行った経験があるという調査結果がある。体罰は子どもの成長に、重大な影響を与えることを忘れてはいけない。体罰のない子育てを実現するために、社会全体で取り組む必要がある

▼今後、政府は体罰を定義するガイドラインを作成する方針だ。政府に頼るまでもなく、このぐらいなら許されるという考え方をやめることが第一歩となる。