社説:新認知症大綱 予防より共生が第一だ

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 認知症対策を強化するための政府の新たな大綱が決定された。発症や進行を遅らせる「予防」に初めて重点を置き、認知症の人が暮らしやすい社会を目指す「共生」と共に対策の両輪とする内容だ。

 厚生労働省によると、認知症の人は2012年に462万人だったが、25年には約700万人に増えると見込まれる。国は15年、認知症対策を盛り込んだ新オレンジプランを策定し、さまざまな施策を進めてきた。25年には団塊世代の人が全て75歳以上の後期高齢者となるため、新たに大綱を策定し取り組みを強化する。

 新大綱は高齢者の運動不足解消や生活習慣病の予防、社会参加などが、予防につながる可能性があるとしている。世界保健機関(WHO)もこうした対策が重要とする。ただ、これらの取り組みをした人が、みな確実に予防できるというわけではないことに留意したい。

 高齢化の進展により「人生100年時代」と言われるようになった。増え続ける認知症の人や家族ら当事者と一般の住民が、どのようにして地域社会で共生していくかに認知症対策の重点を置くべきである。

 大綱は素案段階で「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」と、予防の数値目標を明記した。当事者から「認知症になった人は努力不足という新たな偏見が生まれる」などと反発が相次いだ。このため数値目標は取りやめとなったが、参考値として示されている。

 予防に重点を置くことで、認知症の急激な増加を抑制したいことは理解できる。だが予防を強調することで、当事者らが悲観したり、偏見に苦しんだりすることになっては逆効果である。十分な根拠がないのに予防に役立つと称してサプリメントを販売したり、新たなサービスを提供したりする悪質な業者が問題になる恐れもある。

 大綱の施策を進めるに当たって、既に確実な予防法があると誤解を招かないようにきめ細やかな配慮が必要だ。もちろん、真に有効な予防法を目指した研究やデータの収集、医薬品の開発などは積極的に進めなければならない。

 新大綱の共生を目指す施策として、当事者らを支援する「認知症サポーター」がある。現在230万人いるが、働き手の中心世代に当たる20~50代が少ないことが課題だ。新たな目標として25年までに企業で400万人を養成することを掲げた。スーパーや銀行などで働く人を中心に、当事者らへの配慮や対応の在り方を学ぶ。企業に積極的な取り組みを促したい。

 認知症には誰もがなる可能性がある。認知症の人やその家族ら当事者が地域内を気軽に移動して買い物をしたり、趣味を楽しんだりしながら、自分らしい生活を継続できるように周囲が見守り、支えていく取り組みこそが肝心である。