社説:ハラスメント条約 被害防止へ大きな一歩

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 国際労働機関(ILO)の総会で、職場でのハラスメント(嫌がらせ)を全面的に禁止する条約が採択された。ハラスメントに関する初めての国際基準である。

 ハラスメントには、立場の強い者が弱い者を必要以上に叱り付けるパワハラや、性的な言動で相手を傷つけるセクハラ、妊娠や出産を理由に解雇したりするマタハラなどがあり、いずれも絶えないのが現状だ。条約採択は、そんな旧態依然とした職場環境を改善するための大きな一歩と言える。

 条約は職場でのハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的損害を引き起こす許容できない行為や慣行、その脅威」などと定義。その上で、そうした行為を法律で禁止し、制裁を科す規定を設けることなどを盛り込んだ。ILO総会では加盟各国の政府が2票、使用者と労働者が各1票を投じた。結果は賛成439票、反対7票、棄権30票だった。

 賛成が圧倒的多数を占めたことは、世界の職場でハラスメントが大きな問題になっていることをあらためて浮き彫りにした。各国はこの結果を受け、根絶に向けた取り組みを速やかに推進する必要がある。

 背景には、性被害を告発する「#MeToo」(「私も」の意)運動など世界的な反セクハラ機運の高まりがある。これまで抑圧されていた人たちが、運動に後押しされて徐々に声を上げ始めた。ハラスメントを明確に禁止することは、女性の社会進出を後押しすることにもつながる。その機運をしぼませないようにしたい。

 ILO総会で日本は、政府代表と労働者代表が賛成する一方、使用者代表は棄権した。根本匠厚労相は「条約の趣旨を踏まえながら、ハラスメントのない職場づくりに尽力していきたい」と述べている。経済界に反対意見が根強い中、いかにリーダーシップを発揮するかが問われる。

 ハラスメント対策は急務である。各地の労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加しており、2018年度は約8万2千件に達した。自殺、うつ病といった悲惨な状況に追い込まれる労働者も相次いでいる。企業は働きやすい環境づくりを推進しなければならず、悠長に構えてはいられない。

 国会でも先月、ハラスメント対策の強化を柱とした「女性活躍・ハラスメント規制法」が成立した。パワハラに関して防止対策の義務付けを盛り込むなど一歩前進したと言えるものの、行為自体を禁止する規定は盛り込まれていない。再検討が必要だ。

 ハラスメント対策の実効性を上げなければ、心を病む労働者は後を絶たず、企業の損失も大きい。政府は労使双方と条約批准に向けた協議を速やかに始めるべきである。