北斗星(7月26日付)

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 「もしも『俺の方が面白い』とのたまう人がいるのなら、一度で良いから舞台に上がってみてほしい」。お笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞した小説「火花」(文春文庫)に、主人公の男性がこう独白する場面がある

▼男性は漫才師。中学時代からの友人を相方に、面白くなければ退場必至の厳しい世界でコンビを10年続けたとの自負がある。独白は「自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ」と続く

▼ウケるか否かが勝負。重圧に押しつぶされたら飛躍は望めない。日常生活の中でさまざまなネタを見つけては笑える話に仕立て、練習を重ねて話芸に磨きをかける。そんな芸人たちが、いま重大な事態に直面している

▼振り込め詐欺グループのパーティーに出席して金銭を受け取った「闇営業」問題。関わったのは吉本興業の名のある芸人たちだ。当初は否定していたが、うそがばれて批判にさらされた。謝罪会見を開こうとしたところ、それを止めたとして、今度は経営陣が非難の的となった

▼事態は混迷の度合いを深めている。以前にも増してコンプライアンス(法令順守)が問われる時代だ。吉本はこれまでの対応に甘さがあったことを認めて一から出直すしかない

▼巧みな話芸に、たわいのないギャグ。それが人々を笑わせ、日々の疲れを取ってくれる。だが反社会的勢力の影がちらついたら、もう笑えない。面白いかどうか以前の問題である。