社説:不明者の氏名公表 統一した基準が必要だ

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 政府は、災害時の死者・安否不明者の氏名公表を巡り、統一基準の策定を求める全国知事会と協議に入る意向を示した。不明者情報の有無は捜索に大きな影響を与える。一刻を争う人命救助に関わる問題であり、氏名公表を前提にした統一基準作りが求められる。

 知事会での議論の契機となったのは昨年7月の西日本豪雨で被災した岡山、広島、愛媛の3県の対応が分かれたことである。岡山県は連絡の取れない安否不明者の氏名をいち早く公表し、捜索の効率化につながった。公表で情報が集まった結果、40人以上いた不明者の多くの無事が確認された。一方、広島県は所在確認が困難だった2人の名字のみをカタカナで公表、愛媛県は家族の同意が得られなかったとして非公表だった。

 2015年の関東・東北豪雨では、茨城県常総市で非公表のまま捜索が続き、後に全員無事と判明した。結果的に捜す必要のない人たちを捜索していたことになった。

 氏名を公表すれば、住民から情報が寄せられ、安否確認が進み、捜索範囲が絞り込めるなどの利点がある。一方でプライバシー保護などを理由に家族から反対されるケースもある。災害が発生するたびに自治体側が難しい判断を迫られていることを、政府は理解しているのであろうか。

 知事会は公表により円滑な救助・救援につながるという観点と、プライバシー保護の両方を考慮し、法令などで根拠を明確にするよう求めている。これに対し、政府は「自治体が個人情報保護条例に基づくなどして適切に判断すべきで、統一基準を定めることは考えていない」との答弁書を昨年7月に閣議決定している。

 基準があれば、災害が広域に広がった場合でも、自治体によって公表、非公表の対応が分かれることを防げるはずだ。いつまでも「自治体任せ」でいいのか。人命救助を最優先に、自治体が一体となって迅速に対応するためにも、一定のルールを作るべきである。

 独自に氏名公表の基準を定めている自治体もある。宮崎県は捜索の円滑化が見込まれ、ドメスティックバイオレンスやストーカーの被害者として住民基本台帳の閲覧に制限がかかっていない場合に公表すると明らかにしている。ただ同県は「国による基準作りの見通しがない中での暫定方針」としている。

 政府が知事会と協議に入ることは一歩前進である。しかし政府は基準の必要性を含めて議論したいとの考え。知事会の要望がどこまで受け入れられるかは見通せない。

 大規模災害が相次いでいる。災害が起きてから対応を考えても遅い。平時から準備を整えておくことが重要である。公表を望まない人たちへの対応を含めて、前向きな協議となることを期待する。