ひとり考:最期と向き合う 「摂理だ」と語った夫

お気に入りに登録
※写真クリックで拡大表示します
武さんが残したノート。葬儀は要らないことや、献体の意志がつづられていた
武さんが残したノート。葬儀は要らないことや、献体の意志がつづられていた

 「俺が駄目になったら、余計な治療はやめてくれ。いずれ土に返るんだ。摂理だから」

 かつて夫の武さん=県央、仮名、享年88=が発した言葉を、ミエ子さん(81)=県央、仮名=ははっきり覚えている。庭に盆栽を並べながら、何げなくつぶやいた一言。だがそれは、一人の人が「どう死にたいか」を伝えた大切な言葉でもあった。

 「夫はよく『摂理だ』と言う人でした。余計な治療は要らないという言葉を聞いた時、私も『そうだな、そう思うよ』と答えた気がします」

 武さんは3年半前に脳出血で倒れ、寝たきりになった。自力で動くことも話すこともできなくなり、自宅介護を経て、地域の介護老人保健施設に入った。

 ミエ子さんは週に2度、施設を訪れた。夫と一緒に過ごし、頭や手足をマッサージしながら話し掛けた。「もう、何も分からないのかもしれない。でも反応がなくたって話します。この人は、筋道立てて話をする人だったから」

 どんな状態でも、生きていてくれるだけでいい。だが、こうも考えた。「余計な治療はやめてくれ」「摂理だ」と言った夫の意志に、かなっているだろうかと。

(全文 1763 文字 / 残り 1299 文字)

この連載企画の記事一覧