社説:東電原発事故判決 原因究明、在り方議論を

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 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人に、東京地裁は「津波への予見可能性はなかった」として無罪判決を言い渡した。未曽有の被害をもたらした事故から8年半。旧経営陣の責任は問われなかったが、東電は被災者への対応など今後も企業責任を負い続けることを肝に銘じるべきである。

 裁判で争われたのは大津波を具体的に予見できたかと、対策を講じていれば事故を防ぐことはできたかの2点だった。

 検察官役の指定弁護士は国の地震予測「長期評価」を基に、東電が08年に最大15・7メートルの津波が原発を襲う可能性があるとの試算結果を得ていたことから、大津波は予見はできたとして「原発を止めたり、安全対策を取ったりする義務があったのに怠った」と主張。一方、弁護側は「長期評価に信頼性はなく、予見できなかった」と反論していた。

 東京地裁は判決で「国の長期評価は十分な根拠があったとは言い難く、信頼性には限界があった」と判断。「3人は大津波が襲来することについて、事故回避のため、原発を止める義務を課すほどの予見可能性はなかった」とした。

 原発事故の責任は民事裁判でも争われており、避難者が国や東電に損害賠償を求めた訴訟では「東電は津波を予見でき、事故を防ぐことは可能だった」として賠償責任を認める判決も多い。しかし個人を罰する刑事裁判では事実認定が厳しく、立証のハードルは民事裁判より格段に高いのが現実である。

 判決は司法の限界を示した。特に過失事件では捜査・裁判による原因究明は困難を余儀なくされている。今回の判決を契機に、重大事故における原因究明の在り方について議論を深めなくてはならない。関係者に刑事免責を与えて証言義務を課す制度や、企業・組織の責任を問う「企業罰」の創設の検討も必要である。

 ただ検察が嫌疑不十分として起訴を見送ったにもかかわらず、市民からなる検察審査会が2度にわたり起訴すべきだと判断。強制起訴を経て、法廷で東電の内部事情などが明らかにされたことは評価できる。検察の聴取では元社員から「東電が経営状況を理由に大津波対策を先送りした」との供述が飛び出すなどした。

 無罪判決について、被災者らからは「残念の一言。福島の人は誰一人納得していない」「仮に有罪だったとしても町が元に戻るわけではない。個人で責任を取れる話ではないし、原子力政策を推進してきた国に責任がある」など批判とともに落胆、諦めの声が多く上がった。

 東電は被災者が一日も早く元の生活を取り戻せるよう努力を続けなくてはならない。同時に原発事故が二度と起こることのないように安全対策に万全を期すことが求められる。