社説:吉野氏ノーベル賞 日本の高い研究力証明

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 2019年のノーベル化学賞が、旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)ら3人に決まった。昨年は本庶佑氏が医学生理学賞を受賞しており、日本人のノーベル賞受賞は2年連続だ。

 吉野氏は現代の情報化社会を支えるスマートフォンやデジタルカメラ、ノートパソコンなどに広く使われるリチウムイオン電池の開発に尽力。米国の大学の研究者2人と共に、スウェーデンの王立科学アカデミーに「私たちの生活に革命をもたらし、人類に偉大な貢献をした」などと評価された。日本人の科学への貢献度の高さが改めて証明されたことを、まずは率直に喜びたい。

 リチウムイオン電池は乾電池など使い捨ての「1次電池」と異なり、充電して何度も使える「2次電池」の一つ。小さなサイズで高い電圧を出せるほか、長持ちするのが特徴だ。

 課題は小型化、軽量化をいかに実現するかだった。どんな素材が適するのか、試作が重ねられた。これが適していると決め打ちしても、その後問題が判明して素材探しをやり直すなど、研究現場は試行錯誤の連続。リチウムは発火しやすいため、安全面をチェックする試験も繰り返された。諦めない気持ちが開発につながったと言える。

 1990年代初めに実用化され、現在は地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を出さない電気自動車にも搭載されている。今後は風力発電や太陽光発電を安定的に利用するための蓄電装置への応用が期待される。地球温暖化が深刻さを増し、環境への負荷の少ない社会への転換が求められる中、需要はますます高まるだろう。

 旭化成で研究を続けてきた吉野氏の受賞は、さまざまな分野で研究に力を注ぐ企業を勇気づけたはずだ。企業研究者では他に2002年に化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏らがいる。受賞は日本の企業の研究力のレベルの高さを示す機会にもなった。

 ただ、吉野氏が研究に励んだ1980年代に比べ、近年は企業で研究の縮小が進む。科学技術に振り向ける国の予算も中国や米国などに比べて見劣りする。その中でいかに人材育成を図り、結果を出すかが問われている。政府は今回の受賞を、科学研究振興の在り方を再検討するきっかけにしてほしい。

 吉野氏が最初に科学に興味を持ったのは、小学4年の頃だったという。担任の教師に紹介された本などを読み、のめり込んだ。そうした自身の経験を踏まえて「好奇心を持っていろんなことに関心を抱き、経験していくことが大事」などとエールを送った。

 スマホなどに使われているリチウムイオン電池に光が当たったことで、今回の受賞を身近に感じた人は多いだろう。意欲をかき立てられ、研究の道を志す子どもや若者たちが増えることを期待したい。