社説:東京五輪マラソン 札幌で理解得られるか

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 来年の東京五輪が揺れている。国際オリンピック委員会(IOC)は、東京では厳しい暑さが予想されることから、マラソンと競歩の会場を札幌市に変更する案を打ち出した。IOCのバッハ会長は「大会組織委員会との間では合意に達した」とし、組織委の森喜朗会長も受け入れる考えを表明した。IOCと組織委は、30日から都内で開く調整委員会で詳細を協議する。

 選手、スタッフ、観客らの健康、安全を第一に考えなければならないのは言うまでもない。しかし五輪開幕まで9カ月余りに迫った段階で、唐突にトップダウンで会場変更の判断が示されたことには大きな違和感を覚える。小池百合子都知事をはじめ、関係者の間に異論は多い。IOCはまず変更の明確な根拠と見通しを示して説明責任を果たし、関係者の理解を得ることが必要である。

 東京五輪の会期は来年7月24日~8月9日。真夏の開催で、暑さ対策が必要なことは当初から分かっていた。組織委と東京都は、マラソンと競歩の競技時間を早朝に前倒ししたり、路面温度の上昇を抑えるためにコースを遮熱性舗装にしたりするなどの対策を進め、IOCから一定の評価を受けていた。

 IOCが一転して会場変更案を出した背景には、先月から今月上旬まで中東カタールのドーハで行われた陸上の世界選手権のマラソンと競歩で、棄権者が続出したことがある。東京の夏と似た高温多湿の中で両種目を実施したのに対し、選手、関係者から批判が殺到した。ドーハと同様の事態は避けなければならないが、その結論は札幌開催しかないのだろうか。

 日本陸連は先月、五輪本番とほぼ同じ都内のコースで代表選考会を行い、男女各2人の代表を決めた。真夏の東京への対応力を試す意味もあったが、会場が札幌となっては、陸連関係者と選手は「選考レースは何だったのか」という思いだろう。

 札幌で開催するためには、コースの設定、競技会場の整備、宿泊施設の確保など、実務面で膨大な作業が待ち構える。ボランティア、警備員の確保、審判員や競技役員の移動など綿密な計画を立てる必要がある。販売済みの観戦チケットへの対応も求められる。関係者からは「1年を切った段階では厳しい」との声が聞かれる。

 さらに、新たに発生する経費をどこが負担するのか。森氏は開催経費が膨れ上がった場合、IOCに負担を求める可能性もあるとするが、先行きは不透明だ。

 マラソンは五輪の花形種目である。テレビを通じて開催都市の魅力を世界に発信する機会でもある。残された時間はわずかだ。会場を巡り長々と議論を重ねている余裕はない。IOCは「選手第一」を強調している。だからこそ選手、関係者らが納得して参加できる五輪にするための努力が不可欠である。