北斗星(11月1日付)

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 太宰治ファンにとって、銀座の老舗バー「ルパン」で止まり木にあぐらをかいてリラックスしている写真は印象深い一枚だろう。止まり木とはバーなどのカウンターにある脚の長い椅子。大人の雰囲気漂う一脚だが、場に不慣れな人は気後れするかもしれない

▼そんな情景をあれこれ想像したくなる句に出合った。「止まり木や『夜は長い』と言う男」。秋田市で開かれた全県俳句大会で講師特選に選ばれた。作者はおじさんかと思いきや、この春俳句を始めたばかりの高校2年生の男子と知って驚いた

▼作句に当たってはファンである太宰をイメージしたという。設定は男性が女性を口説く場面。秋の季語「夜長」を話し言葉に変更した。悩んだのは上の句。文芸部のベテラン顧問に相談した末に、選んだ言葉が「止まり木」だった

▼俳句が難しいのは基本が十七音であること。言葉を吟味し、限られた字数で表現できるかが試される。この高校生も「小説のように情報を入れすぎてしまう」と話していた

▼俳句大会で講師を務めた俳人の岸本尚毅さん(58)は「1カ所だけ具体的に詠むこと」と会場でアドバイスした。特選に次ぐ秀逸に選んだ「雷鳴にたぢろぐ猫の鈴ひかり」を引いて、「鈴ひかり」が具体的で一歩踏み込んだ描写だと解説してくれた

▼読み返してみると、確かに句全体が現実味を帯びてくるのが分かる。止まり木しかり、鈴しかり。読み手に具体的な場面を思い起こさせるのも、俳句の面白さである。