北斗星(11月24日付)

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 村上春樹さんの小説「1973年のピンボール」に69年の学生運動のエピソードがある。学生が大学の建物を占拠する。2千枚のレコードを備えた音楽室があり、毎日聴くうちに皆クラシック音楽ファンになる。晴れわたった11月の午後、機動隊が突入した時は「調和の幻想」という曲が大音量でかかっていた

▼作中の語り手は「心暖まる伝説」と呼ぶが皮肉だろう。学生と機動隊の衝突は調和とは正反対だったはずだ。現実の世界でも70年前後、政治や社会の変革を求め学生運動が高まりを見せたことは、子どもながらにテレビを通じて記憶に残る

▼その映像とダブって見えるのが、最近の香港の学生たち。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を機に、香港政府への抗議活動は5カ月余に及ぶ。香港理工大を占拠した学生は千人超の逮捕者を出し、事実上制圧された

▼68、69年の2回、秋田大でも学生による封鎖があった。68年の封鎖に参加した秋田市の言語聴覚士後藤進さん(73)は香港の運動を注視する。「不条理に必死で抵抗するエネルギーは共通と感じる」という

▼暴力に訴えるのは賛成しないが、香港の民主主義を守りたい思いは分かる。「世界中の人が声を上げ、学生たちを支える世論を盛り上げることが大切ではないか」と後藤さん

▼香港ではきょう、地方議会選挙が行われる。民主派の躍進が見込まれ、過激なデモを控える動きもある。願いは平和的な手段で実現してほしい。