社説:幻の五輪代表 復権への取り組み期待

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 東京五輪が開催される2020年は、東西冷戦下で日本がボイコットしたモスクワ五輪から40年目の節目に当たる。国際政治の波にのみ込まれ、晴れの舞台に立てなかった「幻の代表」の無念な思いを、このまま置き去りにしてはならない。

 「幻の代表」は178人に上る。そのうち80人が先日都内で開かれた日本オリンピック委員会(JOC)主催の「集いの会」に招かれ、当時の思いなどを語り合った。JOCは「幻の代表」を東京五輪結団式に招待することや、一人一人に公式ウエアを贈呈することなどを検討しているという。こうしたさまざまな取り組みによって、活躍の場を奪われた人たちの復権を図ってほしい。

 ボイコットの端緒は、1979年のソ連軍のアフガニスタン侵攻だった。対抗手段として米国のカーター大統領は80年、モスクワ五輪ボイコットを呼び掛けた。同年に米大統領選が控えていた。大国の指導者が平和の祭典を政治に用い、米オリンピック委員会が受け入れた形だ。

 日本、西ドイツが不参加、フランスや英国は参加と、西側諸国の対応は割れ、それまで増え続けていた参加国は20年前の60年ローマ大会レベルの80にとどまってしまった。

 日本の「幻の代表」には、金メダル候補だった柔道の山下泰裕・現JOC会長やマラソンの瀬古利彦さんらがいる。本県関係は、メダルを期待されたレスリングの宮原章さんや太田章さん、本県初の競泳代表に選ばれた当時小学6年生の長崎宏子さん、さらにフェンシング4人、ハンドボール1人で計8人にも上る。そのことを記憶に刻んでおきたい。

 日本スポーツ学会は、元選手たちが東京五輪に何らかの形で参加できるよう署名活動を行い、集いの会で、事務局長を務める太田さんが山下JOC会長に署名簿を手渡した。呼び掛け人には、元国連事務次長の明石康さん(大館市出身)や、プロバスケットボールNBAでプレー経験を持つ田臥勇太選手(能代工高出)ら30人が名を連ねた。

 政治介入によって涙をのんだ元選手たちの復権のために、本県ゆかりの人たちが声を上げているのは心強いことだ。「スポーツ秋田」にふさわしい活動と言える。

 ヒトラーがベルリン五輪を利用したり、ミュンヘン五輪でパレスチナゲリラがイスラエル選手団を襲撃したりと、歴史的に五輪は政治と無関係でいられなかったのは事実だ。しかし参加するかどうかを米国が国際政治の駆け引きに使い、多くの国が参加を見送ったのは、スポーツ界の汚点と非難されても仕方がない。

 政治がスポーツを利用してのボイコットは二度とあってはならないということを、東京五輪を機に再確認したい。元選手たちには「五輪の代表だった」と堂々と胸を張ってもらいたい。