北斗星(1月26日付)

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 森繁久弥さん演じる人情家の巡査が赤ん坊を抱き、5、6歳になるその姉を連れて道端に立っている。3人の前を若い巡査が警察のジープで通り過ぎる。車内に身を潜めた母親がわが子の元気な姿を見て涙する

▼1955年公開の映画「警察日記」の幕切れに近いシーンだ。貧しさから子どもたちを捨てた母親が迎えに来てみると、町一番の旅館に引き取られて幸せに暮らしている。そのまま預ける決心をした母親を巡査たちはふびんに思い、旅館の人に気付かれずに子どもたちの姿を一目見せようと一計を案じた

▼同情の涙をこらえながらジープを運転する巡査を演じるのは若き日の宍戸錠さん。この作品がデビュー作だった。宍戸さんの訃報に接し初めてDVDを見た。原作は秋田市出身の作家伊藤永之介の小説である

▼小説の舞台はどことも知れない東北の架空の町だが、映画では福島県に設定されている。万引や無銭飲食、人身売買など、さまざまな問題を起こして警察にやって来る貧しい農民たちと警察官が織りなすドラマだ。小説も映画も好評を博して続編が作られたほか、舞台化された

▼救いのない暗い物語になりかねないところだが、永之介は淡々とユーモラスに描いた。それを巧みに脚色した映画も今見ても楽しめる

▼この作品で一躍売れっ子作家になった永之介は映画のヒットから4年後の59年、55歳の若さで亡くなった。映画で宍戸さんをしのぶ一方で、永之介の文学の魅力に改めて気付かされた。