ローカルメディア列島リレー(2)丹治史彦

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 全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。

企業が発信するローカルメディア

 冊子〈ラ コリーナ〉は、滋賀県近江八幡市の菓子舗〈たねや〉グループの企業広報誌です。人口8万人ほどの街で創業して約150年、2015年に旗艦店である〈ラ コリーナ近江八幡〉がオープンしてからは、年間300万人もの人が訪れるようになりました。

 声をかけていただき山本昌仁社長とお目にかかったのは2011年秋のことです。打ち合わせは最初から面食らうことになりました。曰く「この冊子でうちの宣伝は一切しなくていい」

 え? では何を? 山本社長は続けます。「自分たちが暮らすこの土地の美しさ、豊かさをお客さまと共有するための媒体を作りたい」

 近江商人を多く輩出してきた町ですから、いわゆる〈三方よし*〉の考え方、今でいう企業の社会貢献的な思想は深く根ざしています。その中でもたねやさんの姿勢は徹底していました。

「うちのお客さまはほとんどが県内の方。店頭で冊子を配布することで、お客さまとの会話のきっかけを作れたらうれしい」

 編集する立場として大切にしていることは、ひと言でいえば〈客観的なサポーターでいること〉です。過去から現在、そして未来へとつながる時間の中で、いま目の前にあることを捉えること。地元の人たちには身近すぎて見えにくい足元のことを、〈客人〉としてしっかり可視化し、ともに語り合える言葉にして差し出すこと。それが地域のさまざまな資源を見失わず、誰もが触れられる財産として持ち続けることにつながる。創刊から7年を経てなお、「この土地をお預かりして商いしているのだから、それ以上のお返しをしないといけない」と考えるたねやさんが発信するローカルメディアの形を考え続けています。

*三方よし:「三方」とは売り手、買い手、世間の三つのこと。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるという近江商人の心得を指す。

丹治史彦/滋賀・東京
信陽堂編集室(東京)。書籍、雑誌を手がけながら、2012年より〈ラ コリーナ〉クリエイティブディレクターとして月3回ほどの近江通い。そのほか〈石巻 まちの本棚〉の運営にも関わる。

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