北斗星(3月18日付)

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 「空気投げの辰」。北秋田市の打当(うっとう)マタギのシカリ(頭領)である鈴木英雄さん(72)の祖父・辰五郎さんの異名だ

▼英雄さんの半生を36回にわたり紹介した本紙連載「時代を語る」で、明治生まれの辰五郎さんが繰り返し登場していた。襲ってきたクマを低い姿勢でかわし、沢に転げ落ちたところを仕留めたとの逸話があり、それが異名の由来になった

▼「転び射(う)ちの辰五郎」との異名を持ったマタギもいる。こちらは漫画の登場人物だ。横手市出身の矢口高雄さんが描いた「マタギ」(1975年、双葉社刊)に、百戦錬磨のシカリとして描かれている。空気投げの辰がモデルに違いないと思いながら読み返した

▼英雄さんは祖父からマタギとしての心構えや技術の手ほどきを受けた。山菜やキノコのほか仕留めたクマを山からの大切な授かり物と受け止め、感謝しながら生活しているのは、その教えあればこそだ

▼山の恵みを感じ取りながら暮らしている人は、マタギに限らない。鹿角市の林業男性は「声の十字路」欄に、樹齢100年以上の木を伐採する際は木に向かって「ごめん」と言う先輩がいると紹介していた。長年風雪に耐えてきた樹木への敬意が伝わってくる

▼今年は暖冬の影響で冬眠するクマの目覚めが早まりそう。山から人里に下りたクマによる人身被害は近年絶えないが、駆除するばかりが被害防止対策ではなかろう。マタギら山のプロの思いに耳を傾けつつ、共存する道を探っていけないものか。

鈴木英雄さんに人生を語ってもらいました