ローカルメディア列島リレー(5)三根かよこ

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 全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。

煩わしくて幸せな町唯一の出版社

 神奈川県・三浦半島の最南端に位置する港町「三浦市・三崎」。この町で出版社「アタシ社」を営んで二回目の冬を迎える。引っ越してきた理由を尋ねられると、「家賃が安かったから」と正直に答えている。きっかけはそんなものだった。

 日々、いろんな人が我が社のドアを叩く。役所の移住促進担当、中小企業の社長、鉄道会社の広報、地元の政治家などなど。「本を出したい」「音楽フェスを企画して」「ポスターを作って」「パッケージデザインもできる?」。もはや、よろず相談所。否応無しに仕事の枠を広げられて、「本を作るだけが出版社じゃないよな」と思うようになった。

 この二年、三崎を舞台にした本を二冊出版した。普段は全国の書店から注文をいただくが、そうはいかなかった。それでも、地元書店が何百冊も売ってくれたり、「漁師さんが二十冊買ってたよ」なんて話を聞いて、救われもした。ローカル発のメディアの活動は課題が多い。それでも懲りることなく、この二月には三浦・三崎の観光サイト「gooone」を立ち上げる。三浦市に訪れる観光客は年間六百万人を超えるが、観光情報が整備されていなかったからだ。

 神奈川県内の市で唯一「消滅可能性都市」に指定されている三浦市。地元の人たちは「消滅するわけねぇべ」と、今ここを生きる。私はよそ者のくせして、なにかを背負い、今日も取材を続ける。誰からお金をもらうわけでもなく、むしろ身銭を切って。自分がなにに突き動かされているのか分からない。「彼らの当たり前の日々を守りたい」と、そこはかとなく思うけれど。

三根かよこ/三崎(神奈川)
1986年、千葉県生まれ。リクルートメディアコミュニケーションズ在職中に桑沢デザイン研究所卒業。夫婦で営む出版社「合同会社アタシ社」でデザイナーとして、出版業をはじめ、企業のソーシャルメディアなどのディレクション・デザインを手がける。

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