ローカルメディア列島リレー(6)牧野伊三夫

お気に入りに登録
※写真クリックで拡大表示します

 全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。

メロンパン

 昨年の春に、秋田でパン屋をはじめる人から店のロゴマークの制作依頼があった。亀の町というところで、その名も「亀の町ベーカリー」という屋号の本格的な食パンやフランスパンを扱う店をつくるのだという。ロゴマークは、看板や包装紙、名刺、広告などに使用して経営方針や店の雰囲気を伝える大切なものなので、制作には気を使う。依頼を受けて、コック帽をかぶったパン職人やパンづくりの道具などの絵を提案して何度かやりとりした結果、最終的に亀の絵に決定した。町名の「亀」という字が可愛らしく、そのことを強調して存在感を示すものだった。しかし、その図案について依頼主からひとつ要望がある。亀の甲羅のところが店で販売しないメロンパンに見えるので、もうひと工夫してほしいというのである。これには困った。亀の甲羅というのは、どう描いてもメロンパンに見えてしまうのだ。ためしに長いフランスパンに頭と手足、しっぽをつけてみると鰐のようになった。これでは「鰐の町ベーカリー」。それならばと食パンにすると、今度は驢馬のようになる。いっそメロンパンも売ってもらえないかと思ったが、店の方針にはさからえない。毎日、亀の甲羅の絵ばかり描き続けることになった。夢にまでメロンパンの亀が現れそうだったが、デフォルメを繰り返し、空飛ぶ円盤がゴム長靴を逆さにのせたような亀の描写にたどり着いて、ようやく僕はメロンパンから解放された。ところがである。最近になって、この店がメロンパンの販売をはじめたのだ。メロンパンはどこまでも僕を追いかけてくるらしい。

牧野伊三夫/秋田・東京
1964年北九州市生まれ。画家。広告制作会社サン・アド退社後、油彩、木版画、コラージュなどの作品の発表を続ける傍ら、美術同人誌「四月と十月」創刊。北九州市の「雲のうえ」や「飛騨」の編集委員も務める。

秋田の最新ニュース