ローカルメディア列島リレー(9)末崎光裕

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 全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。

 2016年のロケ中。峠道にあったコンビニの外のデッキで、カツサンドかなにかを食べていた写真家・齋藤圭吾君が、ソースがついた両の手を雨乞いのように上げてうろうろしていた。手洗いか何か探していたのだろう。ほお骨から鎖骨くらいまでひげを生やしている男で、いかにも怪しい。するとベビーカーを押した若いママがにょっと近づき、齋藤君を見上げると「ウェットティッシュでよかですか?」と言った。手にはすでにウェットティッシュがある。ママは会釈をして渡すと、コンビニで用を済ませ車でさっと帰っていった。

 その昔有田焼を扱っていた商家では、妻が自宅で踊りを披露して取引先をもてなしたそうだ。資料館でそんな話を聞いた帰り、道端で猫と遊んでいたおばあちゃんと雑談していたら、商家の出だという。「6歳の6月6日に日本舞踊を習い始めたのよ」とはっきり覚えていた。家に上がっていきなさい、ほら、これが私。アルバムに幼い艶姿(ただしモノクロ)。おすみ先生が厳しくてね、忘れないの、と手、腰、ひざのキメを僕らに見せてくれた。洋食店の店主は、事故による記憶喪失のままだと言った。熱心につけていたレシピノートと、自然に動く手と、世話をしてくれた“友達だという人”のおかげで、同じ町で料理人を続けている。片道10分の小さな渡船を動かす49歳の金子さんは、大荒れで欠航したとき以外に休んだことがない。島唯一の足だからだ。ただ胸の内には、娘さんを旅行に連れて行ってあげたかった、と申し訳なく思っている……あぁ、1号の話だけで埋まってしまいました(笑)。2号を出す出さないは反響を見て、という話だったので、背に「1」の数字はつけられませんでしたが、S=佐賀とN=長崎の職員さんと一緒に歩き、町の人に話を聞き、胸に残ったことを転写していたら4号になりました。

末崎光裕/佐賀・長崎・福岡
編集者。1971年福岡県生まれ。「SとN」は裏方業務と編集担当。佐賀と長崎、2県の職員さんが「SとNだからやれること」を議論してくれるのでうれしい。西日本新聞社出版グループ所属。

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